SANSUI LM シリーズ詳細
仕様詳細
出典:SANSUI LM SPEAKER SERIES カタログ[1]
内部構造
- 良好な過渡応答と歪率の低減
- ツイーターの背面の空気を音道を設け外部へ導いています。このため、空気の粘性によるコーン紙への制動が激減し、コーン紙の振動が対象となり、音の切れ込み、歯切れが良くなりました。また、コーン紙とフレーム間の反射波が除かれ、それに起因する歪みと不要な音の成分を極限まで押さえました。
ツイーターマウント構造
- 無響室での周波数特性とリスニングルームでの高音域エネルギー特性がほぼ一致
- 無響室の周波数特性ではフラットな高音域もリスニングルームで聴くと高音域がやせ、不快に感じる場合があります。これは今まで指向特性の良し悪しで判断されていたためです。LMスピーカーでは、音道により外部へ導いたツイーター背面の音圧を積極的に高音域エネルギーとして利用。無響室での周波数特性と実際のリスニングルームでのエネルギー特性とがほぼ一致し、特に5KHz以上のエネルギー特性はフラットになっています。これは通常のコーンツイーターを使用したスピーカーには見られない特徴で、指向特性も向上し、ステレオの広がり感がいっそう豊になりました。
- ファンタム定位の明確性の向上
- 人間の耳は低音域ではブロードですが、超高音域では立ち上がりの鋭いパルス等に対する応答性の感知度により、定位が決まります。LMスピーカーは音道を設けツイーター背面の空気を楽に外部へ導くことで応答性を改善。ミキシング技術を駆使したレコードもミキサーの意図通りにファンタム定位を明確に再現します。
- パワフルでリニアリティがすぐれています。
- 入力信号に対する音響出力レシオは大出力でも小出力でも殆ど変化が無く、小出力時においても定位、広がり、響きが大出力時と変わりません。また、大入力の音楽ソースに対しても音の粒立ちがくずれず、かつ定格入力の3倍のピークに対してもすばらしい追従性を示します。
- 音質を考慮したトールボーイ型エンクロージャー
- @LMスピーカーの良さを生かし、明るい音づくりを目ざすには、エンクロージャーバッフル面による200Hz〜300Hzのかぶりを取り去る必要があります。このため、LMスピーカーではエンクロージャーのバッフル面積をウーファーの幅いっぱいに設計し、トールボーイ型としました。
- Aエンクロージャーのバッフル板にウーファー専用バッフル板をプラスした2重バッフル構造を採用。ウーファーのバッフル板を厚くし、バッフルの鳴りに起因する低域の無駄な響きをシャットアウト。バッフルの厚さは、LM033で38mm、LM022で35mm、LM011で32mm。LMスピーカーの低音域の音質がすっきりしました。
- BLMスピーカーではエンクロージャー内にツイーターの容積が含まれていないので、エンクロージャーの容積が大きくとれ、同口径のウーファーのスピーカーシステムよりひと回り容積が大きくなっています。
- 6.5cmコーン型ツイーター 【シンバルの歯切れの良い音色は抜群】
- @ボイスコイルにC.C.A.W.採用
- 0.12mm C.C.A.W.(銅皮膜アルミ線)をボイスコイルに採用し、振動系の軽量化と導電性の向上を計りました。
- A超凸型ラジエーター
- 張り出し率の大きい凸型ラジエーターにより、コーン紙内部での位相干渉をさけています。
- ツイーターの音色に合わせたウーファー 【LM033は25.5cm、022は20.5cm、011は16.5cm口径】
- @マルチコルゲーションつきコーン紙
- コーン紙に必要かつ十分な剛性と適度な内部損失を持たせ、分割振動を抑えています。
- A軽量コーン紙と波型エッジ
- 軽量コーン紙により振動系の軽量化を計り、過渡応答の向上、明るい音質を目指しました。さらに、ダンパーとエッジのサスペンションレシオを変えるため、エッジを波型とし、コーン紙円周原形保持特性を向上。これにより、応答性の向上だけでなく、小入力時から大入力時までのリニアリティを改善しています。
- B凹型ラジエーターの採用
- 凹型ラジエーターでウーファー高域の位相特性を良くし、ツイターとのつながり付近のクオリティを向上。さらに、高域の不必要帯域を急峻にカットすることで、クロスオーバー周波数以上での音質を考慮しました。
- 特殊コア使用のネットワーク 【ツイーター、ウーファーとのつながりが自然】
- @特殊コア使用
- ウーファーに直列に入るインダクタンスには、ダンピングファクターを劣化させる直流抵抗をできるだけ押え、大入力時の歪率を増加させない特殊コアを採用しました。
- A低損失、無極性電解コンデンサーの採用
- 無極性電解コンデンサーは高域での損失が大きくなることが問題でしたが、LMスピーカーでは、高域での損失が非常に少ないコンデンサーを使用、特に10kHz以上での損失をカバーすることにより、万全を期しています。
開発情報
出典:イシノラボ/マスターズ店長の連載[2]「第1弾日本オーディオ史、第8回ユニークスピーカーの開発のはじまりとアンプへの取り組み」
ユニーク・スピーカーシステムの開発
S49(1974年)頃になって、4chステレオの開発が下火になってきた頃、スピーカー開発・設計のベテランの方から、次のようなはなしを聞かされた。”ハイファイ用と言われるスピーカーはどうして生き生きしたサウンドがでないのかね?”、わたしはとっさに、”生き生きしたサウンドってあるの?”、と半ば否定するような口調で言った。”TVやラジオの音声を聴いてご覧!広がりも自然だし、楽々音が出てる!”、その方は楽器もやる方だし、何時も問題意識を抱えているエンジニアであった。
TVやラジオのサウンドはそのような聴き方すると確かに楽に音が出ているように感じる。特にアナウンスの声をハイファイスピーカーで当時聴くと、評論家、菅野沖彦さんが良く言うように胴間声に聞こえる場合が多かった。TVやラジオのスピーカーはお金をかけていず、配置も特に考慮されたものではなかった。それなのに、そうなのは後面解放型であったことだ。このタイプだとスピーカーの裏側(逆位相)の音が出るので、低い音になると前後で打ち消しあって、減衰してしまう。最近、再確認したことだが、小型平面型でフェルトでSPユニットの固定をおこなう方式のスピーカー(ラジオ技術で以前紹介されていたし、2月号でもその成果が書かれている!)でボーカルを聴くと、ぞくぞくするほどの臨場感が得られ、ボーカル定位はステージで肉声で唄っているように聴こえる!これは後面のサウンドが室内に反射したりして、前のサウンドとのうまく和んで、そうなるであろう。平面バッフル型コンデンサーSPなどはこのあたりを評価されているものと思える。
スピーカーシステムの放射システムは用途、主張、好みによっていろあり、いちがいにどれが良いとは断定出来ない。それぞれ、光と影があるからだ。例えば、一時、レコーディングスタジオでは壁に埋め込んだシステムが多かった。これは2π空間放射を意図するもので、スピーカーキャビネットの回折現象などは無くなる。その分、音の放射は狭くなる。プロ用で使われるトーンゾイレ型は指向性を制限するので、ある角度内なら、音の飛び(到達)は良くなる。ハイエンドではマッキントッシュのSPが有名である。バックロードホーンシステムは効率がアップするが、裏側と表側との交じり合い、交代周波数付近が気になる場合もある。低域まで再生しようとするとホーンのサイズはとても大きくなるから、部屋の壁面を利用したTANNOYのオートグラフやクリプッシュがあった。バスレフ方式も少しはそのような問題を抱えている。それでは後ろ側の音をキャビネットで囲む密閉方式が良いかと言うと、閉じ込めたサウンドになり、おおらかに鳴らないという場合も少なくない。そうかと言って、無指向性のスピーカーに決まるかというと、この方式のユーザーはごくマイナーな存在だ。ボーズSPのように後ろ側に多くSPユニットを配置して室内の反射を利用する方式もある。スピーカーにおいては問題を抱え、かつオーディオシステムの性格に大きく影響を与える。
そのような想いを抱えつつ、提案された内容について検討することにした。その骨子は高域の広がり(ディスパージョン)を改善したいと言う。高域用のユニットは設計自由度が大きいコーン型(ダイレクト・ラジェーターとも言う)を予定していると言う。高域用スピーカーユニットだと周波数が高いので、コーン紙の裏側を覆ってしまっても、小さい体積で済むし、100%そのようになっている。コーン紙の口径が小さいので、ディスパージョンを測定するとかなり良好であるが周波数が高くなると狭くなってくる。スピーカー技術者としてはそれは当たり前であって、問題点を持つほうが普通ではないのである。だから、スピーカーの進歩は遅いのかも知れない。ボーズの背面放射システムはこの頃の商品化で日本に紹介されたが、専用イコライザー付のスピーカシステムはまだ、日本では受け入れられなかった。
さて、商品化に向けて、技術的に、音響的にメリットを探してくれとの指示で、その検討にとりかかることになった。数学科出身の若手、メカエンジニアと私のトリオで半年程度で、達成せよとのことであった。まずはコーンツイータの背面を開けて、バッフル板を付けて、後面開放型として、ディスパージョンを無響室で測定した。ご存知のように8の字特性を描く。確かに教科書どおりの特性になった。ただ、スピーカーを回転台に置いて回して、指向特性を測定しているだけでは芸がない。そこで、このツイータを2個をステレオ聴取配置に置き、そこにマネキン人形を買ってきて、耳部分に高性能マイクを着けた。ツイータにはサイン波を周波数をパラメータとして加えて鳴らし、1.5m離して、両耳における音圧と両耳の位相差を測定した。このあたりは4chステレオの研究でやった体験が役立った。
無響室では反射がないので、直接音の広がりの差異がうまく測定出来た。垂直方向でも測定したがそれなりの八の字特性が得られた。シンプルな後面解放型ではキャビネットのスペースで製品化がむずかしいので、ツイータの後面の音を3方に導き、左右、上方の3面にバックロードをかけることにした。この計算はチームの若手が数学科出身なので、すぐホーン計算をしてくれた。このユニットで再度、ダミーヘッドで広がり測定するとうまい具合に指向特性は広がって、平面バッフルのように真後ろが最大音圧になることがない。実際のヒアリングにおいても従来の密閉型のツイータでは得られない楽々したライブ感が得られていた。上司に聴かせると、”一般家庭ではどうだ!”と突っ込まれて、丁度、その頃サンスイでは烏山に家具つき空き家を借りていたので、そこまで運んで、比較試聴して、確信を得た。
そこで、商品化に当たって、何を売りにするかの企画会議が開催された。我々は検討経過を報告して、ディスパージョン抜群を売り物にすべきとと主張した。2年前にJBLでは”アクエリアス”とネーミングされた音の広がりを売りにしたシリーズを発売したが、さっぱり売れない。ジャズはあまり広がらずに歯切れ良い音が飛んできたほうが感動が倍化するのだろう。そこで、垂直的な(オーディオ的)なポイントを探せということになった。それからは、ジャズと言えば、歯切れの良さ!ということで、過渡応答を検討することになった。トーンバースト信号をスピーカーに加え、マイクでその音を拾って、ホーンの形状、スピーカーユニットの振動系などを組み合わせてついに、立ち上がり特性が抜群なところまでこぎつけた。この方式をリニア・モーション方式と名づけて、LMシリーズとすることになった。しかし、ツイータが出来てもウーファがないと、システムにならない。これから先は前述したベテランエンジニアの方が担当して、16cm、2ウエイ、20cm、2ウエイスピーカーシステムとして、商品となった。1975年(S50)であった。理論的な背景はAES論文を作成して、アメリカで発表された。このようにすると、白人崇拝の強い日本では強力なサポートとなるのは、西洋音楽の道具であるから、ある程度仕方がない。ウーファはエッジがアルテックのようなフィクス・ウエーブエッジ方式であったので、歯切れは良かった。この商品はその年のヒット商品になった。
[1]SANSUI LM SPEAKER SERIES カタログ、山水電気株式会社、Dec. 1, 1975
[2]ユニーク・スピーカーシステムの開発、https://ishinolab.net/modules/doc_serial/audio_history_japan/serial001_008.html
[3]SANSUI LM011、http://audio-heritage.jp/SANSUI/speaker/lm011.html
Return