SANSUI LM シリーズ詳細

仕様詳細
出典:SANSUI LM SPEAKER SERIES カタログ[1]

LM-011 Inner Structure
内部構造

開発情報
出典:イシノラボ/マスターズ店長の連載[2]「第1弾日本オーディオ史、第8回ユニークスピーカーの開発のはじまりとアンプへの取り組み」

ユニーク・スピーカーシステムの開発
 S49(1974年)頃になって、4chステレオの開発が下火になってきた頃、スピーカー開発・設計のベテランの方から、次のようなはなしを聞かされた。”ハイファイ用と言われるスピーカーはどうして生き生きしたサウンドがでないのかね?”、わたしはとっさに、”生き生きしたサウンドってあるの?”、と半ば否定するような口調で言った。”TVやラジオの音声を聴いてご覧!広がりも自然だし、楽々音が出てる!”、その方は楽器もやる方だし、何時も問題意識を抱えているエンジニアであった。

 TVやラジオのサウンドはそのような聴き方すると確かに楽に音が出ているように感じる。特にアナウンスの声をハイファイスピーカーで当時聴くと、評論家、菅野沖彦さんが良く言うように胴間声に聞こえる場合が多かった。TVやラジオのスピーカーはお金をかけていず、配置も特に考慮されたものではなかった。それなのに、そうなのは後面解放型であったことだ。このタイプだとスピーカーの裏側(逆位相)の音が出るので、低い音になると前後で打ち消しあって、減衰してしまう。最近、再確認したことだが、小型平面型でフェルトでSPユニットの固定をおこなう方式のスピーカー(ラジオ技術で以前紹介されていたし、2月号でもその成果が書かれている!)でボーカルを聴くと、ぞくぞくするほどの臨場感が得られ、ボーカル定位はステージで肉声で唄っているように聴こえる!これは後面のサウンドが室内に反射したりして、前のサウンドとのうまく和んで、そうなるであろう。平面バッフル型コンデンサーSPなどはこのあたりを評価されているものと思える。

 スピーカーシステムの放射システムは用途、主張、好みによっていろあり、いちがいにどれが良いとは断定出来ない。それぞれ、光と影があるからだ。例えば、一時、レコーディングスタジオでは壁に埋め込んだシステムが多かった。これは2π空間放射を意図するもので、スピーカーキャビネットの回折現象などは無くなる。その分、音の放射は狭くなる。プロ用で使われるトーンゾイレ型は指向性を制限するので、ある角度内なら、音の飛び(到達)は良くなる。ハイエンドではマッキントッシュのSPが有名である。バックロードホーンシステムは効率がアップするが、裏側と表側との交じり合い、交代周波数付近が気になる場合もある。低域まで再生しようとするとホーンのサイズはとても大きくなるから、部屋の壁面を利用したTANNOYのオートグラフやクリプッシュがあった。バスレフ方式も少しはそのような問題を抱えている。それでは後ろ側の音をキャビネットで囲む密閉方式が良いかと言うと、閉じ込めたサウンドになり、おおらかに鳴らないという場合も少なくない。そうかと言って、無指向性のスピーカーに決まるかというと、この方式のユーザーはごくマイナーな存在だ。ボーズSPのように後ろ側に多くSPユニットを配置して室内の反射を利用する方式もある。スピーカーにおいては問題を抱え、かつオーディオシステムの性格に大きく影響を与える。

 そのような想いを抱えつつ、提案された内容について検討することにした。その骨子は高域の広がり(ディスパージョン)を改善したいと言う。高域用のユニットは設計自由度が大きいコーン型(ダイレクト・ラジェーターとも言う)を予定していると言う。高域用スピーカーユニットだと周波数が高いので、コーン紙の裏側を覆ってしまっても、小さい体積で済むし、100%そのようになっている。コーン紙の口径が小さいので、ディスパージョンを測定するとかなり良好であるが周波数が高くなると狭くなってくる。スピーカー技術者としてはそれは当たり前であって、問題点を持つほうが普通ではないのである。だから、スピーカーの進歩は遅いのかも知れない。ボーズの背面放射システムはこの頃の商品化で日本に紹介されたが、専用イコライザー付のスピーカシステムはまだ、日本では受け入れられなかった。

 さて、商品化に向けて、技術的に、音響的にメリットを探してくれとの指示で、その検討にとりかかることになった。数学科出身の若手、メカエンジニアと私のトリオで半年程度で、達成せよとのことであった。まずはコーンツイータの背面を開けて、バッフル板を付けて、後面開放型として、ディスパージョンを無響室で測定した。ご存知のように8の字特性を描く。確かに教科書どおりの特性になった。ただ、スピーカーを回転台に置いて回して、指向特性を測定しているだけでは芸がない。そこで、このツイータを2個をステレオ聴取配置に置き、そこにマネキン人形を買ってきて、耳部分に高性能マイクを着けた。ツイータにはサイン波を周波数をパラメータとして加えて鳴らし、1.5m離して、両耳における音圧と両耳の位相差を測定した。このあたりは4chステレオの研究でやった体験が役立った。

 無響室では反射がないので、直接音の広がりの差異がうまく測定出来た。垂直方向でも測定したがそれなりの八の字特性が得られた。シンプルな後面解放型ではキャビネットのスペースで製品化がむずかしいので、ツイータの後面の音を3方に導き、左右、上方の3面にバックロードをかけることにした。この計算はチームの若手が数学科出身なので、すぐホーン計算をしてくれた。このユニットで再度、ダミーヘッドで広がり測定するとうまい具合に指向特性は広がって、平面バッフルのように真後ろが最大音圧になることがない。実際のヒアリングにおいても従来の密閉型のツイータでは得られない楽々したライブ感が得られていた。上司に聴かせると、”一般家庭ではどうだ!”と突っ込まれて、丁度、その頃サンスイでは烏山に家具つき空き家を借りていたので、そこまで運んで、比較試聴して、確信を得た。

 そこで、商品化に当たって、何を売りにするかの企画会議が開催された。我々は検討経過を報告して、ディスパージョン抜群を売り物にすべきとと主張した。2年前にJBLでは”アクエリアス”とネーミングされた音の広がりを売りにしたシリーズを発売したが、さっぱり売れない。ジャズはあまり広がらずに歯切れ良い音が飛んできたほうが感動が倍化するのだろう。そこで、垂直的な(オーディオ的)なポイントを探せということになった。それからは、ジャズと言えば、歯切れの良さ!ということで、過渡応答を検討することになった。トーンバースト信号をスピーカーに加え、マイクでその音を拾って、ホーンの形状、スピーカーユニットの振動系などを組み合わせてついに、立ち上がり特性が抜群なところまでこぎつけた。この方式をリニア・モーション方式と名づけて、LMシリーズとすることになった。しかし、ツイータが出来てもウーファがないと、システムにならない。これから先は前述したベテランエンジニアの方が担当して、16cm、2ウエイ、20cm、2ウエイスピーカーシステムとして、商品となった。1975年(S50)であった。理論的な背景はAES論文を作成して、アメリカで発表された。このようにすると、白人崇拝の強い日本では強力なサポートとなるのは、西洋音楽の道具であるから、ある程度仕方がない。ウーファはエッジがアルテックのようなフィクス・ウエーブエッジ方式であったので、歯切れは良かった。この商品はその年のヒット商品になった。


[1]SANSUI LM SPEAKER SERIES カタログ、山水電気株式会社、Dec. 1, 1975
[2]ユニーク・スピーカーシステムの開発、https://ishinolab.net/modules/doc_serial/audio_history_japan/serial001_008.html
[3]SANSUI LM011、http://audio-heritage.jp/SANSUI/speaker/lm011.html

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