SANSUI LM-011

SANSUI LM-011
SANSUI LM-011

 サンスイといえばあの格子柄カバーのスピーカーボックスやスコーカが二発内向きに配置されたスリーウェイモデル等独特な雰囲気が懐かしいが、JBL国内代理店としてJBLスピーカに造詣が深かったと知るに至りにわかに興味が湧き調べてみると、不思議なスタイルのLMシリーズに出くわした。

 逆ドーム型センターキャップと含浸させた布による波型コルゲーション・エッジを持つウーファ、更にツィータは材質が金属ならフェイズプラグとして機能すると思われるスタイルのセンターキャップが付いているコーン型で、ウーファーと同じ方式のコルゲーション・エッジを持っている。このツィータはバックロードホーンの様な仕組みの後面開放型となっている[22]模様で、高域ではコーンが動きやすく、クロスオーバー付近ではホーンロードがかかって振幅が小さくなるといった、理想的な動作になるとの事[22]。逆ドーム型センターキャップはJBLに端を発しているらしい。

 いやはや、どの部分をもってしても国産では唯一無二の風貌である。どんな音を醸し出すモノか聴かずにはいられない心持ちとなり、待つことしばし、やっとネットに出物が出たので手に入れた。32年物である。事前情報ではアッテネーターに多少ガリが有るとの事だったが、届いた物を見てみるとボリューム部分は巻き線抵抗の感触で、100回程度空回しして擦動部分の接触改善を図ってみたところ問題なく使えそうな感触。そのまま試聴した所全ユニット断線無しで一安心。その昔耳にした16センチ径スピーカを仕込んだバックロードホーン型スピーカに似た音色だが、スピード感があり再生帯域がより平坦で洗練された印象を受けた。

 DIG-U系統用として愛用すべく洗浄清掃補修を施し、いつものシリコーン系ゴム再生液をスピーカーエッジ周りに塗布後、踏み台としてホームセンターで売られている木製台を縦方向に利用してスピーカ台としてセット。あつらえた様に寸法ピッタリだった。

 どんな音がするか恐る恐る50年代JAZZをかけると、ハードな低域たっぷりの鳴りっぷりにビックリ。壁面を背にしたスピーカレイアウトに拠るのかも知れないが、床からも微振動が伝わってくる程のドライブ感、本当に16センチかとしばし呆れてしまった。高域はコーン紙特有の音が感じられ、チョット乾いた独特な音調、かつ後面開放型のせいか音源が拡散される傾向。アッテネータに敏感で、好みの高域と低域バランスを見つけるまでCD数枚を聴いてしまった。

 音出しを始めた当初は定位感に乏しく、まるでホールの最後端に座っている心持ちであった。例のリファレンスバイオリン曲をかけてみたが、しっとり系の高域に慣れ親しんだ駄耳にはコーン紙の音と共に少々ドライでハードすぎるきらいがある。ところがその後更にCD2〜3枚程聴き込むと、次第に柔らかな音を奏で始めた。本来の音を聴かせてくれるにはしばし時間を要するのかも知れない。

 翌日、ボーカルはどうだろうと試してみてビックリ。P-610等のいわゆるロクハンで聴くボーカルは絶品との話を耳にはしていたが、確かに目の前で歌っているかの様な心地である。発音もやけに艶っぽい。今となっては録音の中でしか生きていない彼は、彼女はこんな歌い方をしていたのかと次から次と聴き入ってしまった。定位感や音の分離も昨晩とは格段の違い。このスピーカ、どこまで熟成が進むのだろうかと楽しみが増した次第。

 後日談となるが、こなれてきた頃に再度かけた例のリファレンスバイオリン曲、常用システムで探していたDS-B1の中高域のしっとり感がここにあるではないですか。初期に感じたコーン紙の音と共に少々ドライでハードすぎる傾向はアッテネータ設定もあるかも知れないが嘘の様に影をひそめ、DS-201に感じるバイオリン自体の木質の音まで聴き取れそうな響きに加え、奏者の瞬間的な心の動きまで垣間見させてくれている。このスピーカ、えらく応答が良いのではないか。ピアノ伴奏が朗々と奏でられ生き生きとしていると感じた時、これまでのスピーカでは味わった事のない感銘を受けた。このままDIG-U系統JAZZ用とするにはもったいない程である。

 部屋が狭いせいで今までDIG-Uは大きいと感じていた。DIG-U系統は当面この小振りなLM-011にやっかいになるつもりである。


悦楽の思い

 LM-011がやってきて弄り回した数日後、サンスイでLMシリーズを開発なさった方の記事[23]を見かけた。

 “ハイファイ用と言われるスピーカーはどうして生き生きしたサウンドがでないのかね?”との問いかけに端を発して後面解放型を意識されておられた頃に、高域の広がり(ディスパージョン)を改善し、かつ高域用ユニットとして設計自由度が大きいコーン型(ダイレクト・ラジェーターとも言うらしい)を使用するという商品企画を実現すべく、数学科出身の若手とメカエンジニアの方三人で開発なさったのだという。開発終盤の商品化に当たり、ディスパージョンを売りにした同様企画のJBLアクエリアスシリーズがさっぱり売れていない事を目の当たりにして、急遽ジャズと言えば歯切れの良さ!ということで過渡応答を強化すべく改良を重ね、立ち上がり特性が抜群なところまでこぎつけたとの事。この方式名リニア・モーションからLMシリーズと名付けた模様。

 なるほどと深く納得した次第。この唯一無二の風貌は、スピーカを原点から見直して得た考え方をストレートに具現化したものと理解。このスピーカの響きに感じたものは、正にそこを目指して生み出された故の個性だった。

 ・ SANSUI LM シリーズ詳細

 フルサイズアンプやカセットテープに視野が広がったある日、この LM-011 のエッジがやけに硬めだと気づいた次第。導入直後にシリコーン系ゴム再生液を試みてはいたが、ツィーターはコチコチではないかと思われるほどに固い。バイオリンの高域が濁り加減と感じていた原因かも知れないと思い至った。この時期のサンスイは JBL を彷彿とさせるスピーカーを送り出しており、 LM-011 も波型コルゲーション・エッジ採用とありクロスエッジの裏に塗ってある「ビスコロイド」が固化したものと思われた。先達の方々は色々試されているようで、ブレーキフルード塗りで固化解消との例も見られる。あまり厚く塗布すると柔らかくなりすぎるとの情報もあり、スピーカー特性に影響しかねない。ここはほんの少しの塗布で、後は時間をかけて浸透するのを待つ作戦とした。塗布後数週間、低域の量感が増し応答の良い打楽器音、リニアムの LS-J9 と互角の高域を醸し出し始めている。まだまだ LM-011 を楽しめそうである。


[1]サウンド与太噺、森本雅記(日本のミスターアルテックと呼ばれた方)、http://hwm8.gyao.ne.jp/nao-sakamoto/yota/top.html
・http://www.mnsv.co.jp/images/yotabanashi.pdf
[2]真空管アンプ・スピーカー作りに挑戦、技術評論社、男の自由時間
[3]The BigBlock part14、廃ページ
[4]Altec 409B 20cm同軸フルレンジ、http://www.ceres.dti.ne.jp/~takojin/Speakers/altec409B.htm
[5]ALTEC 409Bと409-8E、http://modernjazznavigator.a.la9.jp/audio/a5.htm
[6]DIATONE スピーカーシステムDS-B1の仕様、http://audio-heritage.jp/DIATONE/diatoneds/ds-b1.html
[7]真空管アンプと適合するスピーカー、http://www.geocities.jp/asd2251sxl2001sax2251/speakerfortubeamp.htm
[8]DIATONE DS-B1、http://www007.upp.so-net.ne.jp/module/Studio/DS-B1.htm
[9]TANNOY Mercury M2、http://tukipie.net/eng/audio/TANNOY_MercuryM2.htm
[10]Tannoy Mercury M2 loudspeakers、http://www.tnt-audio.com/casse/mercury2e.html
[11]くりぷぴょん、廃ページ
[12]Speaker workshop による音響測定、http://www.gem.hi-ho.ne.jp/katsu-san/audio/Speaker/Speaker_Workshop.html
[13]スピーカーのウレタンエッジ代替え品製作 、https://masagoon.exblog.jp/20719711/
[14]スピーカー修理テクニック|スピーカー修理日記、http://ameblo.jp/sp3/theme2-10001708739.html
[15]B級リビルド ツィーター修理、http://tanoshiib.web.fc2.com/sub5.htm
[16]B級リビルド ウーハー修理、http://tanoshiib.web.fc2.com/newpage40.htm
[17]あの時代、オーディオへの憧れを今再び、憧れ探求隊編、株式会社竢o版社、笊カ庫
[18]DIATONE スピーカーシステムDS-201(DB)の仕様、http://audio-heritage.jp/DIATONE/diatoneds/ds-201.html
[19]ダイヤトーン DS-201分解 、http://yuredsure.blogspot.com/2012/12/ds-201.html
[20]ダイヤトーンのDS-201、http://variouskraft.com/AUDIO-3menteSP1-12_DIATONE_DS-201.html
[21]DIATONE DS-201の分解手順、http://pasokonosusumetokka.blog.fc2.com/blog-entry-63.html
[22]SANSUI LM011、http://audio-heritage.jp/SANSUI/speaker/lm011.html
[23]ユニーク・スピーカーシステムの開発、https://ishinolab.net/modules/doc_serial/audio_history_japan/serial001_008.html
[24]スピーカー修理 アルテックフルレンジ、https://ameblo.jp/yamadatenzan/entry-12185075699.html
[25]Speaker Technology、https://www.dagogo.com/speaker-technology/3/

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