ヨシノシズカ
吉野靜

 義經は兄頼朝と不和になり、都落ちをして吉野山に忍んでゐたが、衆徒變心の爲にこの山からさえも落ちなければならなかった。
 一人防ぎ矢を仰せつかった佐藤忠信は山中で偶然に靜御前とめぐり会い、二人で吉野山の衆徒を欺いて義經を落ち延びさせようと諜合わせ、都道者に變装して衆徒の集會の席に紛れ込み、頼朝兄弟はまもなく仲直りをされるそうだと欺いたり、或いは義經の家子郎黨は何れも一騎當千の者ばかりであるとおどかしたりしてゐた。
 其處へ舞装束を着た靜もやって來て、邦樂の舞を奏し舞いながら、頼朝も頓て義經の武勲を認めるであろうから、義經を討つ必要はないのだと言ったり、或いは義經の家來の武勇を語ったりして、長時間舞い續け、衆徒はその舞いに見惚れたり、また義經の武勇を恐れたりして、結局誰も討手には向かわなかったので、その間に義經は遠く落ち延び、靜も目的を達して都に歸った。

曲柄:三番目
季節:三月
等級:四級




 
 

  
  
 

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