ヨオキヒ
楊貴妃

 唐の玄宗は、馬嵬が原で殺された寵姫楊貴妃の事を忘れかねて、方士に魂魄の在處を尋ねさせる。
 方士は天上から黄泉までも尋ね、更に常世の國蓬莱宮に來ると、その太眞殿に居ることが解ったので、其處に尋ねて來ると、貴妃は玉の簾をかかげて方士に會う。
 方士が、玄宗の歎きをを傅え、逢った證になる形見の品を請うと、挿していた玉の釵を與える。こういう珍しからぬ品よりも、帝と密かに契られたお言葉が承りたいと云うと、貴妃はそれを尤もと思い、七夕の夜に天にあらば比翼の鳥、地にあらば連理の枝とその愛の永遠を誓ったことを打明けたが、方士が歸ろうとすると、それを引留めて、もとは上界の仙女であった身上に就いて語り、霓裳羽衣の曲を舞ってみせる。
 やがて方士は釵を携えて歸り、貴妃は涙ながら太眞殿に留まる。

曲柄:三番目(鬘物)
季節:八月
等級:三級

 生と死の混交、愛と死の交流、生前と死後の時間の輻輳など、能の表現の限界に挑んだ表現を求めた能。
 通常の能のように、生者が死者の世界を覗き込むというのではなく、この能では逆に死者がかつて生きた愛の世界を眺め、それを限りなく懐かしむのである[13]。



 
 

  
  
 

Return