ツチグモ
土蜘蛛

 病臥中の源頼光の許へ、胡蝶という女が典藥の頭からの藥を持って見舞いに来て慰めの言葉をかける。
 深更に及ぶと、今度は僧形の怪人物が枕元に現れ病状を聞く。頼光が怪しんで名を尋ねると、「わが背子が来べき宵なりささがにの」という古歌を以て返事に代え、千筋の絲を投げ掛けたので頼光が枕元にあった膝丸で切りつけるとその妖怪は掻き消す様に失せてしまう。
 その物音に驚いた獨武者が駆けつけ、頼光の話を聞いて座中を調べると、血が流れているので跡をたどって退治に出かける。やがて獨武者の一行は古塚の前に達してその塚を崩すと、中から土蜘蛛の精魂が現れ千筋の絲を投げ掛け苦しめたが、遂にそれを退治して都へ帰る。

曲柄:五番目
季節:七月
等級:五級


 「わが背子が来べき宵なりささがにの」:古今集の衣通姫の歌によって蜘蛛の序詞とされている。「ささがにの」は蜘蛛の枕詞。
 悪霊魔力は結局王威に敵しがたいという、所謂芝居がかったものの部類に属しており、幽玄の趣が重要視される能本来の表現精神からは大分距離がある様である。
 胡蝶が何者かを考えてみるのも面白い。頼光の身を案じて見舞いに訪れる可憐な女かはたまた土蜘蛛の回し者か。


 
   
   
   
 

   
       
        
   
 
      
      

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