トモナガ
朝長

 平治の乱に敗れ都落ちして自害した朝長を弔う為に、朝長所縁の僧が嵯峨清涼寺から美濃の国青墓に向かう。
 僧が青墓の宿に着き墓所を訪ねて詣でると、この宿の長者(中年の女)も詣りに来て僧の姿を見て不審に思い、「この墓所へは七日毎に参る自分意外は参る人も無いのに、涙を流して懇ろに弔うのは何方か」と朝長との因縁を尋ねる。
 朝長所縁の僧と知った長者は、朝長に一夜の御宿をした縁で同様に弔いをする宿の長であると告げ、自分の家で朝長が自害した時の有様などを詳しく物語り、僧を我が家へ連れて行き懇ろにもてなす。
 その夜僧が観音懺法の法要を勤めていると、夜半に朝長の亡霊が現れる。そして、平治の乱後に或いは殺され、或いは生け捕られた父や兄の事を語り、野間の長田は主君である父義朝を闇討ちにしたのに、長者がかいがいしくも我が死後まで弔ってくれる事の嬉しさを語る。更に、深手を負ってから自害するに到る迄の有様を語り、回向を頼んで消え失せる。

曲柄:二番目
季節:一月
等級:一級

 能の構成では、主役たる旅する僧や尉あるいは童子の供養と眠りと夢を境に前半と後半に分かれ、主役はその姿を変え化現として登場するが、この曲では前半の主役と後半の主役は全くの別人格となっている。
 前半の主役は、ただ一宿の縁以上の所縁も無いのにかいがいしくも朝長の死後まで弔う女で、後半の主役は朝長の亡霊である。
 一方では所縁の無い女が温かい同情を持つのに対し、また一方では主君を裏切る長田の変心を示し、人情に対する疑義を際立たせ、永久に信頼すべき佛の慈悲を讃えている。



 
  
  
 

 
   
      
  
  
  
   
     

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