トモエ


 木曾の山家の僧が都へ向かう途中、江州粟津の原で休んでいると松陰の神前で涙を流す女と出会うが、女は行教和尚が宇佐八幡に詣でて感涙を流した故事を語る。女は僧が木曾の人と知り、此所は同郷の木曾義仲が祀られているので慰める様云うが、実は私も亡者であると告げ夕暮れの草陰に消える。
 僧が弔いながら夜を過ごしていると先程の女が甲冑姿で現れ、実はかつて木曽義仲に仕えていた巴御前という女武者であると名乗り、此所で自分が華麗な長刀さばきで奮戦した様や義仲最期の有様を物語る。巴は女故義仲と一緒に死ぬことを許されず、形見の品を持って独り木曾へ落ちのびた心残りの執心を晴らしてくれる様、僧に回向を頼む。

曲柄:二番目
季節:正月
等級:四級

 巴は義仲と枕を並べて討ち死にすることを本望と思っていたが、義仲は巴が女故それを許さず、「背かば主従三世の契り絶え果て」永久に勘当するぞと諭し郷里へ帰る様形見を持たせ自害し果てた。義仲の思いやりが巴には却って怨めしく、その執心故彼女の霊魂は義仲戦死の場所に祀られた祠(ほこら)を守っている。
 中世では、親子一世、夫婦二世、主従三世とし、主従は前世から来世に到るほど夫婦よりも縁が深いと考えられており、義仲との縁は夫婦の契りよりも深いと巴は思慕の念を募らせていた。
 この曲は修羅物の中でも女を主人公とする唯一のものとなっている。



 
 

 
   
    
   
   
   
   
   
   

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