タマカヅラ
玉鬘

 南都の社寺を巡拜した旅僧が、更に初瀬詣を志して初瀬川のそば迄來ると、小舟に棹さして急な流れを上って來る女がいる。怪しんで言葉を掛けると、女はただ初瀬寺に詣でる者と答へて、僧と一緒に山の紅葉を賞しながら御堂に詣でる。

 女が更に二本の杉に僧を案内したので、僧が二本の杉の立所を訊ねずは云々の古歌の謂れを訊ねると、光源氏の昔に、早舟で筑紫を逃げ出した玉鬘が都に上ってこの寺に詣り、思いがけなく亡母の侍女であった右近に會った時、その右近が詠んだ歌であると物語り、自分がその玉鬘の幽靈である事を仄めかして消え失せる。

 そこで僧が玉鬘の爲に回向をしていると、軈て玉鬘の靈が現れ妄執に苦しむ身上を歎いたが、懺悔をし、妄執を晴らして成佛する。

曲柄:四番目
季節:九月
等級:三級


 「なんとしても仏の慈悲をうけたい一心で現れたけれど、いまは老いて、髪も飾りも乱れて恥ずかしい」「浮世の塵に汚れた我が身はいくら払っても執心が離れず、迷うばかり」[16]



 
 

 
  
  
  

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