スミダガワ
隅田川

 武藏國隅田川の川岸で大念佛が行われるので、渡し守が乗る人を待っていると、子供を人買いにさらわれ狂乱し、我が子の行方を尋ね歩き都の北白川から遥々東国まで来た狂女が乗船を頼む。
 狂って見せたら乗せてやろうと言うと、狂女は伊勢物語の文句を引用し、沖のかもめを見て業平の古歌を我が境遇と重ね哀れむので、憐れを催した渡し守は乗せてやり、對岸へと漕ぎ出す。その途中渡し守は、一年前に人買いに連れられて来た子供が病死したのを人々が不憫に思い囘向している、と大念佛の子細を物語る。囘向を受けるその子供が我が愛兒であると知った狂女は、船中に泣き伏す。同情した渡し守は下船後、この母を墓所に伴い囘向を勧める。
 母も氣を取り直して大念佛を唱えていると、その子梅若丸の声が聞こえ、姿が幻のように現れる。母は歩みより抱こうとするが、夜が明けゆくと共に消え失せる。

曲柄:四番目(略三番目)
季節:三月
等級:九番習

 能の狂女物は『隅田川』『自然居士』『三井寺』『百萬』など、大半が人買説話をもとにしているが、中世の闇を垣間見せてくれている。櫻川を参照。



 
   
   
 

   
   
    
   

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