セッショオセキ
殺生石

 玄翁という旅の僧が那須野の原に着き、巨石の傍らに寄るとどこからともなく女が現れ、その石は殺生石といって人畜の命を奪うから近づくな、と声を掛ける。
 石の由来を尋ねられるた女は、玉藻の前(たまものまえ)という女官が実は帝の命を狙う化生の者とわかり、阿倍泰成に追われてこの那須野に逃げ込み、その執心がこの石に宿って未だに危害を加えている、と語る。そして自分がその石塊で、夜には真の姿を現すと言い残して石の中に消え去る。
 その夜玄翁が仏事を営むと、石は二つに割れ狐の姿で石魂が現れる。そして世に様々な危害を与えた揚句、遂にこの那須野で三浦の介、上総の介に退治されその後殺生石となった経緯を語る。供養を受けたので以後悪事を働かないと固く誓ってその石魂は消え去る。

曲柄:四番目、五番目(略二番目)
季節:九月
等級:四級

 その昔インドに悪霊が生まれ、斑足王の美しい妃に収まり王をそそのかして罪無き人々の首を切らせた。その後、その霊は生まれ変わって周の国の幽王の妃、褒じ(じ:女へんに似:常用漢字外)となった。のろしが上がった時のみこの世のものとは思えぬ満面の笑みを浮かべる妃の笑顔見たさに、幽王は敵も来ないのにのろしを次々と上げさせたが、本当に敵が攻めてきた時には兵が一人も集まらず都は滅んで幽王は殺された。そして、悪霊は物語に登場する玉藻の前という妖艶な美女に生まれ変わったのだった。

 能では玄翁道人が仏事を営んで殺生石が割れるが、この事に由来して石工や大工の鉄製の鎚のことを「玄翁(玄能)」と呼ばれる様になったとの謂われがある。



 
 

 
   
  
  

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