センジュ
千手

 一の谷の合戦で生捕らえた平重衡は鎌倉に送られ狩野介宗茂の預りとなっている。源頼朝は、朝敵とはいえ重衡に同情して手越の長の女(むすめ)千手を遣わして之を慰める。
 ある雨の日に、宗茂が酒を勸めようと思っている處へ、千手が琵琶と琴を携えて訪ねてくる。重衡は、千手の取次で頼朝に願い出た出家の望みが許されなかったと知り、これも父の命令で仏像を燒き人命を斷った報いであろうと歎く。
 千手は重衡を慰めて酒を勸めて舞い謡うと、重衡も興に乗って琵琶を彈こうとするので、千手もまたそれに琴を合わせたりする。そうこうしているうちに短夜が明け始め重衡は祝宴を止める。軈て重衡は勅命によって都に送られることになり、千手は泣きながら之を見送る。

曲柄:三番目
季節:三月
等級:二級


 重衡が鎌倉の幽閉地からまた都へ引き戻される前夜、春雨がそぼ降っている。出家の願いは頼朝に斥けられ、都へ戻されればやがて刑場の露と消えねばならぬ運命に直面している。千手は頼朝から遣わされていたが、馴れそめて心をゆるし合い、重衡の処刑後は尼となって追福を祈る程に献身的になっていた。


 
 

   
   
  
  

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