セミマル
蝉丸

 延喜帝の第四皇子蝉丸の宮は前世の因果か盲目に生まれ、父帝は宮の後世を救おうと臣清貫に宮を逢坂山に捨てて出家させるよう命じる。清貫は宮を慮って悲しむが、蝉丸は、「前世の戒行拙きにより盲目に生まれついたのだ。現世にて過去の業障を果たし、後の世を助ける。これは父の深い慈悲の表れ。」とたしなめる。清貫が涙ながらに去り、逢坂山に一人残った蝉丸はさすがに淑しく琵琶を抱いて泣き伏す。やがて博雅三位がやって来て蝉丸を慰め、小屋を作りその中へ助け入れて帰って行く。
 蝉丸には逆髪という姉宮がいたが、心が狂乱し髪が逆様に生え上がるという異形により、辺境をさまよい歩く宿業を負っている。彼女は御所をさまよい出て、いつしか逢坂山へと辿り着く。
 そこで彼女はそまつな藁屋から漏れてくる気高い琵琶の音を聞く。その懐かしさを湛えた音こそ弟宮が弾く琵琶の音である。
 姉弟は互いに手を取り合い、身の不運を嘆き悲しみ慰め合う。しかしそれもつかの間、やがて名残を借しみつつも姉宮はいずこへともなく去って行き、弟は見えぬ目でいつまでも見送る。

曲柄:四番目(略三番目)
季節:八月
等級:二級

 逆髪にとって狂乱は彼女の一面に過ぎない。
 逆髪は云う、「これらは皆人間目前の境界でしかない。花の種は地に埋もれるがやがて千林の梢となって上へ伸びる。月は天に懸かるが湛えた水に映した影は水底に沈む。一体何が順で何が逆なのか」と。
 その詞章には内面の鋭い知性が示される。



 
 

   
   
    
輿
    
   
   
   

Return