サンショオ
三笑

 晋の慧遠禪師は廬山の下に白蓮社を結んで佛道を修め、虎渓の外へは決して出なかった。
 ある時、陶淵明と陸修静とが訪ねて來たので、巖頭に腰かけて酒宴を催し、瀑布を賞し、大いに語り、菊花を肴に舞ったりして、興にに乗じて思わず酒を過ごした。
 そうこうしながら歸ろうとする二人を見送る慧遠の足許はよろつくので、陶淵明と陸修静の二人に扶けられ、打ち興じながら行くうちに、思わず虎渓から遙かに出てしまい、さては禁足をお破りになるのかと言われて始めて気がつき、三人は一度にどっと笑った。

曲柄:四番目(略初能)
季節:十一月
等級:二級

 ここでは、禪僧の慧遠、道士の陸修静、詩人の陶淵明の三人が登場するが、三人とも歴史上異なった時代の人々である。それゆえ故事といっても作り話に過ぎないが、事実よりも話に含まれているユーモアが愛されて、長らく伝えられてきた様である。「虎渓三笑」は中国人にとっては、身近な譬えとしてよく使われる言葉の様である。



 
 

   
   
  

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