サイギョオザクラ
西行櫻
此処彼処の花見に歩き廻っている京都下京邊の人達がある日西山の西行庵室の花見に來る。
庵室の前にある老木の櫻を愛して、獨り靜かに眺め暮らそうと思っていた西行は、この花見の人達を斷る事も出來ず、柴垣の戸を開いて内に入れる。その心境を「花見んと群れつつ人の來るのみぞあたら櫻のとがにはありける」と詠じたが、結局その夜は都の人達と一緒に花の下臥をする。
深更に及んで白髪の老人が現れ、花見の人々が訪ねて來るのを櫻の科と仰せられたが、非情の櫻に浮き世の科はない筈ですと辨解する。西行はこれを受け入れ、御身は花の精かと訊ねると、實は老木の櫻の精であると答える。櫻の精は心解けて花の名所を語り打興じ、舞を舞うて春の夜を愉しんでいたが、夜明けが近づくと西行の夢は覺め、翁の姿は跡方もなくなくなる。
曲柄:四番目
季節:三月
等級:準高等
命を懸けて花を咲かせた老木の櫻の精の言葉、「春宵一刻値千金」。自らの命への切実な呼びかけとして響く「待てしばし待てしばし、夜はまだ深きぞ」そして「夢は覚めにけり」。無常ゆえにかけがえのない、命と時が、散る花に重なる。
素
謡
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