ンメガエ
梅枝

 諸国を廻っている身延山の僧が摂津の国住吉に着いたとき村雨が降り、とある庵に泊めてもらう。庵の主は中年の女で、庵の中を見ると舞楽の太鼓と衣裳が飾ってあるので不思議に思いそのいわれを尋ねる。
 昔この國の天王寺にいた浅間という伶人と住吉の富士という伶人とが内裏の管弦の役を争い、互いに都に上ったが富士がその役を賜ったので、浅間は心憎く思い遂に富士を殺してしまう。富士の妻は夫の死を嘆き悲しみ、形見の太鼓を打っては夫への恋慕の情を紛らかしていたが、この女もついに亡くなったという哀れな物語をした後で、執心の苦しみを述べ助けを乞うて消え失せる。
 僧が法華経を讀誦して囘向していると、富士の妻の亡靈が在りし日の夫の舞いの衣裳を着て現れ、懺悔の爲にと言って昔の事を語ったり舞を舞って妄執を払うようであったが、楽の音は松風の音にまぎれ、面影を残して亡靈の姿は見えなく消え失せる。

曲柄:四番目
季節:九月
等級:二級


 夫を送り出した後で夢見が悪く、妻が都へ上って夫の形見の衣装を着て狂乱する「富士太鼓」の後日談の設定で、「梅枝」ではその妻も世を去って年久しくなった或る時、一人の僧がその亡靈に逢い、まだ消えやらぬ執心を助ける筋書きである。


 
  
  
 

 
   
    
   
   
   
   

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