ニシキギ
錦木

 廻國の僧が、陸奥狭布の里で、鳥の羽の布を持った女と美しく彩った木を持った男との夫婦らしい市人から、當所名物の細布、錦木を買ってくれと言われて、その謂われを訊ねると、細布は胸あひ難き戀に喩えられ、錦木は求婚の證に女の家の門に立てるもので、逢うべき男の錦木は取入れられ、そうでないのは取入れられないのであるが、三年間も錦木を立て續けた男がその錦木と一緒に埋められた錦塚という古墳も殘っていると語り其處へ案内してから、二人は塚の中に姿を消した。
 そこで僧が讀經をしてやると、夢に先刻の二人が現れ、懺悔物語をし、佛縁を得た悦びの舞を奏しているうちに、はや明方になって、僧の夢は覚め、二人の姿は消え失せる。

曲柄:四番目(略二番目)
季節:九月
等級:三級


 錦木が千束になれば男の心通りになる習慣で、若者は二里の道を遠しともせず毎夜たて続けた。
 しかし父は由緒ある家柄であるとの理由で、農民である若者との結婚は許さなかった。
 門口に錦木を立て初めてから九百九十九夜、若者は遂に病の床に伏しそのまま失恋のうちに亡くなった。若者死せりと聞いた女も間もなく若者のあとを追うように亡くなってしまう。(推古天皇七年九月十三日)


 
 

  
    
     
    
    
  
    
    
    
    
    

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