モリヒサ
盛久

 平盛久は捕らわれて鎌倉に送られる事になったが、都を出る時、護送役の土屋三郎に乞うて日頃信仰する清水觀音へ輿を立てさせ、最後の祈願をしてから鎌倉に下った。
 處刑の時が近づき、それを土屋が知らせた時にも、また心靜かに觀音經を讀誦し、その後で一睡していると、夢中に觀音のお告げがあった。
 翌曉、由比ケ濱で斬られようとする時、太刀取は盛久が手にしていた經巻から發する光で目が眩み、取落した太刀は二つに折れてしまった。
 これを聞いた頼朝は、盛久を連れて來させ、清水觀音の靈夢の次第を聞くと、自分も同じ夢を見ていたので、奇特に思い、命を助けた上、盃を與えて舞を所望し、盛久は立って舞い、軈て退出する。

曲柄:四・五番目(略二番目)
季節:三月
等級:準九番習


 「百年の富貴は塵中の夢 一寸の光陰は沙裏の金」
 百年の栄華が何であろう。塵の世の夢ではないか。今の刻々こそが砂中の金のように貴いのだ。


 
  
  
 

  
  
    
輿
 
 
  
   

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