マキギヌ
巻絹

 夢のお告げを受けた帝の命で千疋の巻絹を熊野三杜に奉納する事になり、臣下が熊野に参拝し諸国から巻絹を集める。都からの巻絹を運ぶ男は、途中音無の天神へ詣って冬梅の見事さに手向けの和歌を詠んだりしたので日限に遅れて到着する。
 勅使がその科を責め縛ると、音無天神の霊が憑り移った巫女が現れ、この男は昨日音無天神に詣でた時に和歌を私に手向けた者であるから縄を解くようにと頼む。そして手向けの和歌の上の句を男に詠ませ、下の句を自分で詠んだのを証拠として示して自分で縄を解く。
 巫女は更に和歌の徳を語るが、勅使の求めに応じて祝詞を上げ神楽を舞ううちに狂態となり、狂おしく舞いながら熊野権現の事を神語りし、やがて神が離れて本性に帰る。

曲柄:四番目(略三番目)(略初能)
季節:十二月
等級:三級

 能で神楽を舞うのは女か女神に限られる。
 この曲の女主人公は熊野の巫女であり、その巫女に天神が乗り憑く。巫女が熊野権現の霊感に打たれて物狂おしくなると、「空に飛ぶ鳥の翔り翔りて地に又踊り」と形容されるような凄まじい勢いで舞い戯れる。
 この曲の本旨は巫女がそうした神楽を狂乱的に見せると云うところにある。



 
 

   
   
  

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