カモ
賀茂

 播磨国の室明神は賀茂明神と同じく実りの雨を降らせる農耕の神・雷神である。
 その室明神の神職が下賀茂明神に参詣すると、河辺に仕つらえた壇に白い矢が立てゝある。
 不審に思っていると二人の水汲みの里女が現われ、いわれを話す。
 「昔、秦氏の娘が神に毛向ける水を毎日この川で汲んでいたが、ある日白矢が流れて来たので家に持ち帰り軒に挿して置いた処、娘は懐妊し、男児を生んだ。家族が父は誰かと娘に尋ね娘がその矢を指すと、矢は鳴る神となって天に昇り去った。矢は雷神であり、その児も母も神となり、これが松尾の雷神と、賀茂の御祖と別雷の二社の神である。」
 更にその里女は、川に因む和歌の数々を挙げて川の景趣を愛で謡い、実は自身が当の賀茂の女神であると明かし、神の来臨を予告し、消え失せる。
 その後下賀茂社の女神が現われて清爽な舞を見せ、緑の袖を川に浸して涼を楽しむ様を見せると、山河草木を揺り動かして上賀茂社の雷神が現われ、日本全国に雨をもたらし五穀成就となる様を舞い示す。

曲柄:初番目
季節:六月
等級:四級

 農耕は天候、特に晴雨に支配され、晴雨を支配するのは雷神だと信じられてきた。雷の字も雨の下の田であり、稲妻、稲光の字も稲に関係があり、田に降りそゝぐ雨は実りを約束する。
 そういえば、私の住んでいる地域にも雷神という地名があった。天を揺るがすような雷鳴と共に降り注ぐ大粒の雨には、大いなる自然の力を感ぜずには居られない。
 曲想の背景にはこうした民衆の素朴な自然崇拝があると考えられる。



 
   
 

 
     
      
    
    
 
    
    
     
     
     

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