カゲキヨ
景清

 平家の侍大将平景清は悪七兵衛と呼ばれる豪の者であったが、壇ノ浦の合戦の後日向國宮崎に流されている。その娘人丸は、生死も定かではない父を慕い従者を連れて鎌倉から宮崎に下る。宮崎に着いて、ある藁屋に居る盲目の乞食に景清の事を訊ねると、知らぬと答える。人丸主従はまもなく道で里人に会い、里人は盲目の乞食が父の景清であると教える。里人は父に會いたがっている人丸を哀れに思い連れて來て景清に對面させると、景清は子の爲を思って隠そうとした心中を語る。人丸から屋島の戦の功名談を聞かせてくれるよう乞われ、聞いたらすぐ鎌倉に帰る約束をさせて屋島の戦いで武勇を現した思い出を語る。その後、我が亡き跡の回向を頼み、故郷へ娘を歸らせる。

曲柄:四番目(略二番目)
季節:不定
等級:九番習

 義経と同時代の平景清は悪七兵衛景清として知られているが、「悪」は豪勇という意味である。屋島の戦いの武勇として三保谷(みほや)の錣(しころ)を素手で引きちぎった様子が語られる。錣は、兜の鉢の左右後方に下げて首筋を覆う部分を云う。
 平景清は平氏に仕えて戦ったので一般に平姓で呼ばれるが、本名は藤原景清である。本曲でも「平家の見方たるにより、源氏に憎まれ」とされている。

 衰えた身体の中に鮮やかに残る過去、そして、人間らしい情を思い出してしまった事が、この後、景清の死までの時間を重くしてしまう現実を余韻に、能は終わる。[13]



 
    
 

    
    
 
 
 
  

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