ジネンコジ
自然居士

 自然居士といふ渇食が、京都東山雲居寺造營の爲の説法をしてゐると、一人の少女が來て、父母追善の爲に身を賣って得た小袖に諷誦文を添へて捧げたので、それを讀上げ、聽衆と共に袖を濡らしていると、そこへ東國の人商人が來て、自分が買ひ取ったのだからと云って、少女を引き立てゝいく。それを知った居士は、直ちに説法を中止して跡を追ひ、大津松本から既に船を漕出してゐた人商人を呼びとめ、裳裾を波に浸しながら船に乘り移り、船中にゐる少女を返してくれと頼む。人商人は居士を嚇して下船させようとしたが、居士が少しも動ぜないので、嬲った上で返してやろうと思い、曲舞・簓・羯鼓などを所望すると、居士は嫌々ながら望まれる儘に謠ひ舞ひ、遂に取戻して歸る。

曲柄:四・五番目(略二番目)
季節:不定
等級:二級


 自然居士は鎌倉時代、南禅寺の開山大明国師に師事し活躍した実在の説経芸能者。簓の名手で「ささら太郎」と呼ばれたと云う。法衣を着て烏帽子をつけ、黒髪を肩まで垂らし髭を生やして既存宗派から疎まれた「ささら太郎」は、室町時代の美しい少年として登場している。
 能は「隅田川」「櫻川」「花月」「百萬」「三井寺」など人買いや天狗にさらわれた幼児、神隠しのように突然、行方不明になった子供の悲劇を扱う。


 
  
  
 

  
   
    
 
  
   

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