ヰヅツ
井筒

 旅の僧が在原寺を訪れ在原業平と紀有常の娘の菩提を弔おうとすると、一人の女が井戸の水を汲み花を手向けている。井筒の水に互いの顔を映し水鏡して遊びながら成長し、業平と将来を誓った有常の娘である、と言って井筒の陰に消えてしまう。
 夜が更けふたたび有常の娘の霊が現れ、舞い、謡いながら、在りし日の業平との思い出に浸っていく。昔さながらに井筒をのぞけば、そこには業平の面影が映っている・・・・。

曲柄:三番目
季節:九月
等級:二級

 後シテは初冠と長絹を着る。井筒の女が業平の形見の冠と長衣を着て現れる事を示している。形見は単に亡き人の思い出の品ではなく、思う人の形を見る、つまり思う人が再生される媒体と考えられる。女が男の形見を身に纏う事によって、女は再生した男に包まれ、一体化しつつ官能の世界を舞う事になる。[13]



 
 

 
   
  
  

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