ヒバリヤマ
雲雀山

 横佩の右大臣豊成はある人の讒言を信じて、息女の中將姫を大和と紀伊との境にある雲雀山で殺させようとする。命を受けた家來は殺すに忍びず、山中に庵を作って密かに姫を匿う。
 乳母の侍従は草木の花を里人に賣って姫を養っている。ある日侍従が里に出かけていくと、豊成が狩のためにやって來て、侍従が狂人のような様子で面白い事を言いながら花を賣っているのに出會う。豊成は、姫がまだ生きておりその姫を養う爲に一方ならぬ苦勞をしている事を知る。豊成が先非を悔いていることの嘘でないことを~に誓ったので、侍従は安心して山中の隠れ家に豊成を連れて行く。親子は再會し、豊成は喜んで姫を奈良の都に伴い歸る。

曲柄:四番目
季節:四月
等級:三級

 中將姫は、當麻寺の曼荼羅を織ったとされる伝説上の女性である。出典となったと目される中将姫の物語では、要約すると、継子虐待と當麻曼荼羅の由来を語っている。
 讒言は継母によるものであり、その後の経緯は曲趣のとおりである。父豊成と一緒に奈良へ帰った後日談となるが、姫は帝に望まれるほどの美しさであったが、仏道への志深く館を抜け出して大和の當麻寺に入って尼となる。やがて阿弥陀如来と観音菩醍の助力のもとに蓮糸で曼荼羅を仕上げ、女人ながら浄土に招かれて成仏する。
 中将姫が匿われた所は、奈良県宇陀市の日張山青蓮寺と和歌山県有田市の雲雀山得生寺の両説がある。前者、日張山は狩猟の名所であった様である。
 侍従は狂人のような様子で面白い事を言いながら花を賣っていると描写されているが、ここでの「狂人」は現代の気が狂った精神異常者ではなく、一途な思いや気持ちの集中を「狂い」と表現している。



 
   
   
   
 

  
    
    
    
      
  
   
    
    
    
    
    
     

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