ハクラクテン
白樂天

 唐の白樂天が、日本の智慧をを測る爲に筑紫の海上まで來ると、船で釣りをしてゐる漁翁に逢ったので、お前は日本の者かと訊ねると、漁翁は、貴方は唐の白樂天であらうと云って樂天を驚かす。更に樂天が目前の景色を詩に作ると、漁翁は直ちに和歌に詠み變へ、日本では生ある物凡てが歌を詠むのであると云って例を挙げ、樂天を感歎させてから、序に舞歌の曲を奏して見せようと云って消え失せる。
 軈て住吉明~が現れ、自分に力のある間は断じて日本を窺せはしないのだから、速やかに歸られよ、と云って舞樂を奏し、その他の~々や八大龍王も現れて舞を舞ふと、舞の袖から起こる~風の爲に樂天の船は吹き戻される。

曲柄:初能(一番目、~祗物)
季節:不定
等級:二級


 住吉明神を尊崇し、1420 年に没した、武士歌人の典型的代表である今川了俊の紀行文における明神の表象が「白楽天」と近いものをもつことは、注目すべきことであると思う。この能は対馬で朝鮮海軍を打ち破ったこと、及び兵庫湾から明の使いを駆逐したことを祝福するものとして適合するばかりでなく、また同時に、将軍の利益のために働いて、生涯のうち、20数年間の歳月を九州で費やした了俊への、記念碑的な慶賀の意味もあったかも知れない。(スーザン・ブレークリ・クライン)[19]


 
 

  
    
     
   
   
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