ハゴロモ
羽衣

 三保の松原に住む漁師・白龍が釣りに出掛け浦の春景色を眺めていると、空には花が降り妙なる音楽が聞こえ霊香が周りを包み、松の木に美しい衣が掛かっている。
 持ち帰ろうとすると天人が現れ、それは自分のものだからと衣を返すように懇願する。衣が天人の羽衣であることを知った白龍は、珍しいものなので国の宝にしようと返そうとしない。
 羽衣がなくては天に帰れないと空を見て悲しむ天人の哀れな姿に、白龍は衣を返す代わりに天人の舞楽を見せてほしいと頼むが、天人はまず衣を返すようにと言う。
 衣を返せばそのまま天に帰ってしまうのではと言う白龍の言葉に、天人は「いや疑いは人間にあり天に偽りなきものを」と答え、白龍は自分の言葉を恥じて衣を天人に返す。
 羽衣を著した天人は、月にある美しい宮殿の様子、そして天上界にも劣らない松原の春の景色を讃めながら舞を舞う。この舞はその後「東遊」の「駿河舞」として伝わる。天人は暫く袖を翻して舞っていたが、やがて富士の嶺より高く霞んだ天空へと姿を消して行く。

曲柄:三番目
季節:三月
等級:四級

 漁師白龍から返された天女は、舞台の上で羽衣をつけ舞うのであるが、この舞で天女はこの世界の成り立ちを説く。
 その昔いざなぎ、いざなみの二神が現れ、十方世界を定めたが、空は限りなく、久方の空と名付けた。
 その月には玉斧で建造された永遠の都があり、白衣天人十五人、黒衣天人十五人が居て常に十五人が月宮に奉仕している。月の一日から白衣が一人ずつ宮中に入り、同時に黒衣が一人ずつ退出する。十五日で白衣十五人となり満月に到り、それ以降は今度は黒衣一人づつ宮中に入り、黒衣十五人に到って闇夜となる。
 天女はそもそも地上に遊びに降りてきて、三保の松原で水浴びをしている隙に松にかけた羽衣を漁師に取られてしまうが、地上の天女は衰弱し、冠につけた「かざしの花」も衰え始める。後半、返された羽衣を得て活力が戻り、次第に天上界の人と変わっていく。
 天人は人界を超えた妖精ではあるが、神性は賦輿されておらず、清浄さと可憐さを現す。



 
 

  
  
   
  
  
  
  
  

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