ゲンジョオ
玄象

 時の太政大臣藤原師長は、自分ほどの琵琶の名手はもはや日本にはいないと考え、琵琶の相手を求めて渡唐を思い立ち、途中で摂津の須磨の浦へとやって来る。
 その浜で出会った汐汲みの尉と姥に一夜の宿を請うと、かつて都が旱魃に襲われた時に、師長が御所の神泉苑で雨乞いのために奏した琵琶の秘曲が龍神を感動させて大雨を降らせた話をして一曲弾くよう所望する。
 師長が所望されるままに琵琶を弾いていると、村雨が板庇を打って妨げる。すると夫婦は苫で板屋を葺き、雨音を琵琶と同じく黄鐘調に変えたので、師長はこの夫婦が音樂を心得ていることをさとり、夫婦に一曲を所望する。
 そこで夫婦は琵琶と琴を合奏したが、その神伎に驚いた師長が、渡唐を思い立った己惚れを恥じながら出て行こうとする。夫婦は師長を引き留め、實は我等は渡唐を止めさせようと思って現れた村上天皇と梨壷女御であると言って消え失せる。
 軈て村上天皇の靈が現れ下界の龍~を召して獅子丸の琵琶を取り寄せ、師長に授けて秘曲を傅え、八大龍馬に引かせた飛行の車に乗って立ち去る。

曲柄:五番目(略初能)
季節:八月
等級:準九番習

 かつて仁明天皇の頃、掃部頭藤原貞敏が渡唐した折り、唐の音楽家・廉承武より琵琶の三秘曲の伝授をうけ「玄象」「青山」「獅子丸」3面の琵琶を持ち帰ろうとした。帰国の渡海中、龍~が惜しんだのか、波風が激しくなったので「獅子丸」を海底に沈め、残る2面を持ち帰ったことにして献上した。村上天皇の靈が現れて龍~に差し出させたのはこの獅子丸という事になる。



 
    
 

  
      
       
    
    
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