フヂト
藤戸

 佐々木盛綱が源平の藤戸の合戦で先陣の功により賜った備前の児島に入部(領主として入る)する。そして訴訟のある者は申し出よとのふれを出す。
 貧しい身なりの老女が現れ、去年の戦の際に何の罪もない我が子が盛綱に刺殺されて海に沈められた恨みを訴える。
 思い当たった盛綱は、藤戸の合戦で手柄を立てようと浦の漁師に馬で渡れる浅瀬を案内させ、心ならずも他言されない様にその男を刺して海へ沈めた始終を物語るが、老女は益々悲しみ我が子を返せと狂気したかの様に泣き叫ぶ。盛綱は罪を詫び、弔いを約束して老女を家に帰す。
 その後夜も更け盛綱が追善供養をしていると、憔悴した漁師の亡霊が波間から現れ命を奪った理不尽を責め、怨みを晴らす為に悪霊の水神となって迫るが、回向を受けて法の船で生死の海を渡って彼岸に到り、成仏の身となる事が出来たと告げ消え失せる。

曲柄:四番目
季節:三月
等級:九番習

 謡曲春秋の前置きで、「旅する僧」の供養と眠りと「夢」を境に前半と後半に分かれ主役はその姿を変えるとしたが、この「藤戸」の場合、後半で盛綱が幽霊世界へ入り込むのではなく、あくまでも現実世界の住人盛綱の眼前に漁師の幽霊が復讐の為に現れている。
 「藤戸」は従って、前半、後半を通して「現在能」と考えられる。



 
  
  
 

 
   
    
 
 
  
   
   

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