アタカ
安宅

 義経は頼朝の追捕を逃れ都を落ちて奥州平泉へ向かうべく、主従十二人からなる偽山伏となり加賀國安宅の関にさしかかる。
 かねてより国々に新たに関所を設け山伏取り調べの厳命を受けていた関守富樫某は、一行を怪しんで通行を差し止める。先達辨慶は、南都東大寺建立の為の勧進山伏と申し立てたがなかなか関を通してくれず、山伏の尊厳を説いたり、有り合わせの巻物を勧進帳と見せかけて読み上げたりして疑いを交わすが、強力姿の義経が呼び止められてしまう。
 辨慶は義経を金剛杖で打ち、やっとその場を切り抜ける。
 主従が関所から遠ざかった山陰で一休みしながらこれまでの悲運を語り合っていると、先刻の非礼を詫びる為に富樫が酒を持参し勧める。辨慶は油断するなと自ら「延年」を舞いつつ一行を促し、虎の尾を踏み毒蛇の口を遁れる心地で奥州へと下って行く。

曲柄:四番目、五番目(略二番目)
季節:二月
等級:三級

 「安宅」は能面を着けないで演じられる。これを「直面」(ひためん)といい、現実の男を現す。能では化粧をしないので素顔で演じる事になり、役者の顔も能面の一種と位置づけられる。
 義経は成人であるが安宅では子方が勤め、ここに室町時代の美少年愛好趣味が色濃く感ぜられるが、シテたる辨慶を際立たせ、大人数の山伏に扮したツレとの対比の妙が観る者を魅了する。



 
 

    
    
  
  
   
   
   

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