アダチガハラ
安達原

 廻国修業の旅に出た紀伊の国那智の東光坊祐慶の一行が陸奥の安達原までやって來た時、日も暮れ一軒の古びた庵に宿を求める。その庵には老境に近づいた女がひとりで住んでおり、初めは断るが行くあてのない一行を憐んで入れる。
 祐慶が部屋の片隅に見なれぬ物を見つけ問うと、女は枠杆輪と(わくかせわ)いう糸を繰る道具と云いながら、実際に糸を繰る様子を見せる。糸を繰るうちに女は自分のつらい身の上や、糸のように長い命のつれなさを思い泣き出す。
 やがて女は、自分の留守中絶対に閨の中を見ないようにと言い置き、夜寒をしのぐため薪を採りに山ヘ出かける。
 祐慶の従者が女の様子を不審に思い閨の中を覗くと、そこには人の死骸がうず高く積み上げられている。一行はここが安達原の黒塚に住むという有名な鬼の住みかだったのだと悟り逃げ出す。
 裏切られ鬼女と化した女は、逃げ行く一行を追い取って喰らおうとするが、一行の必死の祈りに伏せられ夜嵐とともに消え失せる。

曲柄:五番目
季節:八月
等級:三級



 
  
  
 

 
   
    
  
  
 

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