NIKON Nikomart-FTN

NIKON Nikomart-FTN
NIKON Nikomart-FTN(ジャンク品入手)

 私がニコンに触る機会を得たのは F や発売間もない F のフォトミックからである。オリンパスに傾倒していた者としては、重厚なニコンに何て無骨で凄いんだろうと畏怖すら覚えていた。この念は後々まで尾を引き、仕事面では使用する事が多かったものの、結局所有するに至らずじまいとなっていた。

 中古ジャンク機械式カメラに目が行く様になった一年程前、そろそろニコンを触ってみようかと巻き上げ不良のニコマートFTNを目にして入手。年代物の割には擦れも少なく綺麗な状態だったが、弄ってみると巻き上げレバーが固まって全く動かない代物だった。カムか何かが引っかかっていないかと底カバーを外すと、割れた部品のかけらが落ちてきた。これは動く様にするには部品が必要になると分解する意欲も失せ、その後一年戸棚の飾りと化していた。

 猛暑の中汗を拭き拭き格闘したDA変換ユニット製作等のオーディオ熱が一段落したこの冬、戸棚のFTNが気にかかり始め方策を模索している所へ、ニコンで修理を手がけていた方の執筆による本[19]にFTNの分解手順が記載されている事を知り早速入手。手順に従い軍艦部(上部カバー)を外してミラーボックスを取り出すと、シャッター機構部とミラー機構部をリンクする本体底面のセットレバーのピンが割れていた。これが割れている為に巻き上げレバーが動かず固まったものと思われた。シャッター機構部やミラー駆動部は単独では問題なく作動する事が確認出来た。

セットレバー
壊れていたセットレバー

 さて、割れたセットレバーである。強めのスプリング仕掛けのミラー部を押して定位置にセットするもので、かなり力のかかる部品と思われる。にも関わらず割れた方のピンは、細く弱々しい。これは意図的な設計と見た。このか細いピンは、力の要るミラー駆動部が何らかの原因で作動不良となった場合に、シャッター部や巻き上げレバー部に伝搬する事を避けるヒューズ的な役割を担っていると思われる。これは交換部品が必要と探した所、部品取り用のシャッターが不動のFTNが目に止まり早速入手。いそいそと目的の部品を取り出すべく分解すると、なんと、この個体もセットレバーのピンが全く同じ状態に割れていた。

割れたセットレバー
割れたセットレバー

 茫然自失状態で数日後、これはこの部品を作るしかないと腹をくくり、部品取りに使えそうな金属片を探す事に。ありました、忘年会の宴会芸手品の仕込み用に100円ショップで入手したスプーンの形状が、セットレバーの形に符号すると判明。後は、グラインダーやヤスリがけで力づくで同じ形をでっち上げ。スプーン材は厚みが多かったのでヤスリ掛けで薄くした。厚み的には素材としてフライ返しも良かったかもと後の祭り。焼き入れをしようと検討するもフォークがステンレス製で焼き入れ出来ない事を知り、強度に不安が残るものの年間数本程度の撮影しかしないと、そのまま使用する事に。

スプーンと自作セットレバー&ワッシャー
スプーンと自作セットレバー&ワッシャー

 でっち上げたセットレバーの厚み調整用に極薄ワッシャーを作り込み、組み付け作動調整。製作したセットレバーの形やストロークが正規部品と微妙に異なり、リンク機構がスムースに作動しない事態が発生するも無理矢理カムやレバーを曲げたり削ったりして何とか機能する状態にこぎ着けた。その後、電池ホルダーが腐食していたので部品取りFTNの状態の良い電池ホルダーと交換。組立直した後モルト交換や光学系クリーニングし、絶版HD(1.35V)水銀電池に換えドイツVARTA社V625PX電池(1.35V)をいれて、ワクワクしながら別途入手清掃前のレンズを付けてファインダーを覗くと、メーターが動かない。この頃の感光Cds素子は劣化が早いとも聞くので、もしや測光系はおシャカかと徒労感が漂う。気を取り直して上カバーを外し、原因追及の再挑戦。結局、今回メカ部を弄っている間に力がかかったか、元々そうだったかは不明だが固定抵抗の端子が剥がれ壊れていた。ぴったりと合う数値の固定抵抗が無かったのであり合わせの抵抗を並列接続するも、若干低めの抵抗値となった。

交換した固定抵抗
交換した固定抵抗

 これでメータは動く様になったものの、シャッターボタンを押してもシャッター後幕が粘る傾向が出始め再度分解し、結局新規に貼ったファインダー下部のモルト粘着テープがシャッター幕に貼り付いて発生していると判明。全てが終わるまで、年末年始の二週間を要してしまった。

 レンズは、今回弄った FTN に付いてきた NIKKOR-H・C 50mm f2.0、部品取り FTN と一緒にセットやって来たガチャガチャのピンが壊れている Nikomart EL 付属の NIKKOR-S 35mm f2.8、中古屋さんジャンク品コーナーに佇んでいてワンコインで手に入れた RMC Tokina 35-70mm f4.0 が手元にあったが、何れもカビカビ品。FTN 本体がようやく使えそうなので週末の空き時間にカビ退治大作戦を決行。三本一度に分解カビ取りと相成り、力ずくのドライバー回しでさすがに手の指がヒリヒリと痛い。その後35mmレンズのヘリコイドの動きが重くなったり軽くなったりするので、再度分解。今度は針金の先に付けたグリースをヘリコイド部分に付着させた後、くるくる回して馴染ませ納得の操作感に。試し撮りが楽しみである。


悦楽の思い

 今回初めて部品を自作せざるを得なかった。加工精度は素人細工そのもので、組み込んだ FTN には申し訳ない状態である。小型工作機械を導入すれば加工精度は上がるのだが。素人細工部品装着後、ミラー駆動部の作動に至るには微調整と称して、カムやらフックやらを曲げたり削ったりと、ほとんど破壊行為である。機械式カメラは部品間に空間的な余裕があり、また部品間の遊びも適度に取ってある事がこうした行為を許容するに至っている。オリジナルの部品群は素晴らしい加工精度で、大戦後の機械式カメラと一線を画していると実感した。

 ニコンの絞り設定機構は「ガチャガチャ」と称されている様だが、何でカメラ本体へレンズ装着後にガチャガチャやるのか、今にして理解した次第。異なるレンズの開放絞り値を機械的に本体へ初期設定するには、ガチャガチャとリンクしてやるしか無かったのだなと感慨深い。


[1]カメラと戦争、小倉磐夫、朝日新聞社、朝日文庫
[2]ドイツカメラの本、佐貫亦男、株式会社小学館、小学館文庫
[3]ライカ解体新書、田村彰英、成美堂出版、SEIMIDO MOOK
[4]ライカとモノクロの日々、内田ユキオ、株式会社竢o版社、笊カ庫
[5]ライカ解剖学、大西真一、辰巳出版株式会社、タツミムック
[6]ライカ通の本、円谷円、株式会社小学館、小学館文庫
[7]中古カメラ屋通の本、円谷円、株式会社小学館、小学館文庫
[8]ノスタルジックカメラマクロ図鑑ポケットvol.3、押江義男、株式会社ネコ・パブリッシング、NEKO MOOK 62
[9]使うリコーGR、田中長徳、双葉社、クラシックカメラ Mini Book Special issue
[10]悦楽GR、青山祐介、株式会社竢o版社、笊カ庫
[11]無手勝流GR1読本、田中長徳、株式会社アルファベータ、カメラジャーナル BOOKS 4
[12]絶対ニコン主義!、マニュアルカメラ編集部編、株式会社竢o版社、笊カ庫
[13]往年のキャノンカメラ図鑑、マニュアルカメラ編集部編、株式会社竢o版社、笊カ庫
[14]スローカメラの休日、田村彰英、株式会社竢o版社、笊カ庫
[15]120%オートハーフを楽しむ本、Ryu Itsuki、株式会社竢o版社、笊カ庫
[16]ハーフサイズカメラ道楽、飯田鉄+良心堂、株式会社竢o版社、笊カ庫
[17]ソビエトカメラ党宣言、中村陸雄、原書房
[18]Fantastic Camera Gallery、http://fantastic-camera.com/
[19]やさしいカメラ修理教室、大関通夫、株式会社朝日ソノラマ、クラシックカメラ選書 20
[20]ジャンクカメラの分解と組立に挑戦!、水滸堂ジャンクカメラ研究室、株式会社技術評論社

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