CASIO EXILIM EX-S600

CASIO EX-S600
CASIO EXILIM EX-S600(ジャンク品入手)

 暫くぶりに時間が取れたので中古屋ジャンク品コーナーをのぞくと、新古品かと思う程綺麗な箱付き備品一式付きディジカメが雑多なジャンクの中に紛れていた。CASIO EXILIM EX-S600 である。「電源入らず」との説明がついており、2コインのジャンク価格となっていた。最近のディジカメの構造を研究するにはもってこいと思い、早速入手。

 持ち帰って充電池を本体に挿入し電源スイッチを押すと、電源ランプが点いたものの格納レンズが飛び出してきた後、「ジジ・ジジ・ジジ」と音がして直ぐに電源が切れ、レンズが格納されてしまう。この「ジジ・ジジ・ジジ」音出始めに瞬間的にピンぼけ風景が映る事も判った。何度試しても、充電池を満充電にしても状況は変わらない。他のカメラで撮影記録したSDメモリを差し込むと、綺麗に再生表示出来る。メニュー画面等の基本ファームウェア系も異常無し。壊しても出費はジャンク価格のみだし、構造が判るだけでも儲けものと自分を納得させ、本体表裏2ピース構造のケースを開けてみた。電子基板半分とレンズユニット半分それにフラッシュ用大容量コンデンサ、あとは充電池とメモリー用空間であった。格納レンズが飛び出すのでレンズユニットの構造は正常、瞬間的にピンぼけ映像が映るのでCCD素子や撮影系統、再生系統も正常と判断。これは本格的に壊れている。

 回路図などの資料もないし、手に負えそうもないとCASIOのWEBサイトで修理費用を試算すると、部品交換無しのファームウェアなどソフト周り等の場合5千円弱、ICチップや基板周りの故障だと基板交換で1万円弱、レンズモジュールだと交換で1万数千円と判明。いずれも、チェンジニア修理(モジュール交換修理)しか行われていない模様。このままオモチャと化すか、気合いを入れて部品一個まで踏み込んだ修理に挑戦か、少し気が滅入る。

 ネット検索すると、小型ディジカメは各社結構壊れるものらしい。EXILIMシリーズユーザーからは、故障したので開けてコネクタの接触周りを弄って直ったとか、ファームウェア不調が原因でファームウェアを入れ替えたら直ったとかの報告例がある。検討を重ねた数日後、CASIOのWEBサイトからEX-S600用V1.02(本体旧版はV1.00)ファームウェアをダウンロードして入れ替えてみた。アングル補正機能が追加されるとの事。新版ファームウェアでは、結局「ジジ・ジジ・ジジ」プッツン故障への効果無しと判明。

 「ジジ・ジジ・ジジ」プッツンであるが、電源投入直後のカメラ初期化過程で格納レンズ定位置となった後、フォーカシング初期化時に焦点が合わないために規定回数だけフォーカシングを試みた後、残念でしたと電源が切られているのではないかと推定。レンズユニットにはレンズ格納系モータと、フォーカシングの為にレンズを動かしていると思われるモータの2個のモータが装着されている。レンズを動かすと思われるモータのギアを時計ドライバでカタカタと動かすと、ところどころ動きが鈍い所がある。弄った後電源を入れると、瞬間映像のピンぼけ具合が変わり、ギアの回し具合によっては合焦点の時もある。数十回弄って、一度だけ「ジジ・ジジ・ジジ」プッツンとは成らず、電源が入りっぱなしの時があった。しかしピンぼけ映像しか映らない。もう少しギアを回すと、今度は「ジジ・ジジ・ジジ」プッツン。この様子から故障は電子的な焦点電位ロック過程ではなく、機構的な原因と感じられた。

 もう、壊してもやむなしと腹をくくり、レンズユニットの解体へ。中から顔を出したレンズは、銀塩小型カメラのそれと比べるとそれはもう超小型と思える程小さなもので、枚数もえらく少ない。昨今のレンズはシミュレーション手法の成熟とレンズ加工技術により、高屈折率ガラス(場合によってはプラスチック)を理論通りにグニャグニャと非球面設計し、それこそ光は少ないレンズの中でグニャリと大きく曲がって焦点へ辿り着いているんだと実感した次第。さて、レンズを動かすと思われるモータのギア周りであるが、金属ネジの回転に従って位置を変える、ネジ山を切ってあるプラスチック製のレバーの先に、バネで押さえつけられるフォーカシングレンズが付いて一緒に動く構造となっている。この金属ネジ両端部広範囲にプラスチック製レバーが削れたと思われる粉が固まって付着しており、動きを阻害していた。

レンズユニット分解
分解したレンズユニットと洗浄後のプラスチック粉固着金属ネジ

 プラスチックの削りカスを金属ネジから除去した後、プラスチック製レバーのネジ山が削れて無くなっている事を心配して慎重に動きを確認したが、何とかそのまま使えそうな感触で一安心。場合によっては、同機種別故障のジャンク品を入手して部品取りするか、このプラスチック製レバーを自作するか等と思いめぐらせてしまった。ギア部へCRC-556を垂らし、ウキウキした気分で部品丸出しのままでの電源投入動作試験である。「ジジ・ジジ・ジジ」プッツン、またもや電源が切れてしまい失意の人に。回路図や機構図、調整マニュアル等全くない中での勘だけを頼りにした修理の真似事なので、調整方法が判らない。レバーの位置を最端にして電源を入れてみたり、反対側最端位置から電源投入したりと色々試している内に、偶然なのか電源がプッツンせずに、ピントピッタリの鮮明画像が映り続ける正常動作に辿り着いた。このまま調子悪くならないでくれと願いながら、エアーダスター等で埃が入らない様に充分注意して組立完了。レンズユニットを分解したので、埃が入り込んでいない事を祈るばかり。

 その後は、電源スイッチのクリック感が無くなりスイッチの接点カップを整形し直した後、順調に作動中である。素人調整なのでピントやらズームやらがずれていると思われるが、L版写真焼き付け程度なら問題ないと踏んでいる。

 それにしてもこの EX-S600、多機能ぶりに驚かされる。600万画素とある。今まで私が使用してきたディジカメは初期の85万画素のものから、300万画素、500万画素といずれも低価格入門機種のものばかりで、メニュー項目もそんなには多くない。EX-S600 は48もの撮影シーン、古く色あせた写真を蘇らせるという「よみがえりショット」などは言うに及ばす、一眼レフカメラかと思えるパンフォーカス・マニュアルフォーカス、中央重点測光・スポット測光、撮影中のヒストグラム表示やパソコン用画像編集ソフトかと勘違いする様な回転表示、リサイズ、シャープネス・彩度・コントラストさえも自由に変えられる機能が中に入っており、上級機は違うモンだと感心した次第。特にマニュアルフォーカスは、カメラからの焦点距離を任意に設定する事で銀塩一眼レフよろしく前後のボケ味を出した絵作りが出来、カメラを知っていると感じる設計である。こんな風に機能を造り込むんだと新たな知見を得た。これはいいと早速1GBメモリ、互換電池と純正イタリアレザーケースを奢ってやり現用機の仲間入り。

 後日談となるがこの EX-S600、その後2年程我が家のメイン機として活躍。画像処理系の多さがメイン機たり得た要因である。我が家では特にシーン毎にシャッタースピードやF値、ホワイトバランスまで微調整設定するベストショット機能が好評で、日食騒ぎ翌年の旅立ちの季節、子供が自分用ディジカメとしてこのベストショットを使い慣れている同シリーズを入手。EX-S600 はその後落下アクシデントに遭い修理を試みたものの復旧不能となりやむなくCASIOの現行シリーズを購入。壊れたEX-S600はと云えば、その後2コインで「バッテリー固定爪折れ、外装ネジ数個欠品」という物を入手、衣替えして甦りサブカメラとして現役となっている。

 各社ディジカメを弄り始めて、CASIOはカメラの構造物はもちろんであるが、何よりもファームウェアとしてのソフトウェアに力を入れていると感じている。ベストショットとして組み込まれているシーンの多さ等の撮影機能はさておき、撮った後の画像データの処理機能に他社との差別化が図られているのではないかと考えざるを得ない。


悦楽の思い

 CASIO は私らの世代では「答え一発カシオミニ」である。電池駆動の水緑色(アンバー)に発光するニキシー管表示が懐かしい。我が家には今でもそこいら辺にころがっているハズである。NHKのプロジェクトX、ディジカメ開発物語は感涙ものであった。そういえば30年程前、機械式腕時計全盛の時代にディジタル式腕時計で業界に挑戦してきたのもここで、今でこそ日常的に機械式腕時計を愛用している身ではあるが、当時市場に出始めたCASIO社ディジタル腕時計を早速腕につけたりしていたものだった。その頃は英国シンクレア社[1]がクールなデザインのLED表示腕時計キットを発売しており、手を尽くして米国経由で入手後組立てて着用していた。CASIO社のそれは甲乙付けがたく素晴らしいものだった。そうした CASIO 社のディジカメを弄る機会に巡り会えて感慨深い。


[1]http://ja.wikipedia.org/wiki/シンクレア・リサーチ

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