CANON EOS-630

CANON EOS-630
EOS-630(ジャンク品入手)

 隣町に進出してきたリサイクルショップを覗いたところ、ジャンクコーナーにひっそりと陳列されていたチョット大きなプラボディカメラが目に付いた。カメラ店でもないのにジャンクカメラが置いてあると手に取ったのが運のつき。カメラ本体と赤白ストラップ、取説が綺麗にパッケージされており、シャッター作動不調のコメント。一緒にいたカミさんが「買わなくていいの?」と水を向ける中、我慢して帰ったものの気になって夜も鬱々。翌日、さっそく出向いてゲット。

 パッケージを開けると外側に埃がこびり付いているものの、純正赤白ストラップ以外にデータバックも付いているではないですか。カメラ本体をゴシゴシ洗浄し、綺麗になった所で状態チェック。外装は擦り傷がありストラップ取り付けリングが歪んでいるなど、使い込んだ痕跡有り。レンズと電池が無いので動作状況を調べられないながらも裏蓋を開けると、EOSシリーズ初期モデルに見られるシャッターアブソーバの溶融(加水分解と言うらしい)で、シャッター膜に黒いベトベト油状のものが付着。

 ネット上にはハガキや折り畳んだクリーニングペーパーにベンジンやエタノール、さらにはジッポーライターオイルなどを染み込ませてアブソーバ位置付近に差し込み、ベトベトが無くなるまでひたすら拭き続ける洗浄方法などが紹介されており、なんとかなりそうな感触。

 そうこうしている内に、弟から朗報が。ネット上に、カメラを分解しシャッターモジュールを降ろして洗浄する方法が紹介してあるとの事。調べると、溶融アブソーバを洗浄後にシリコンゴムに取り替える裏技もあるらしい。早速東急ハンズでシリコンゴムをゲットし、カメラ本体解体作業に備えた。

 暫くして神のお導きかの様に近くの電器系リサイクルショップを無性に覗きたくなり寄ってみると、ジャンク箱の中にカメラレンズが。綺麗なミノルタ360siの本体も入っており、気持ちが動いたが既に持っているので断念。レンズだが、なんと純正EF35-105 F3.5-4.5 !。オートフォーカス動作せずとある。袋入りでレンズには触れず、ダメ元で最悪分解研究材料にと入手。早速ゴシゴシ洗浄で綺麗になった後よく見ると、レンズ後玉内部に塵状の付着物が全面に見受けられた。ネットで修理手順情報を入手。分解掃除の楽しみの余韻。可動部分をいじくり回し馴染ませてからカメラ本体へ装着。

 カメラ本体にレンズが付き、外見はすばらしい雰囲気を醸し出している。さて、動くかどうかが気になりいよいよ電池を買いに。2CR5電池の値段を聞いてビックリ。電池定価がジャンクカメラ本体入手価格と同じではないですか。3割引との事だったが躊躇し、カメラ店からの電池購入は断念。後ほど5割引電池をゲットし、早速動作試験。動いたっ、カメラもレンズも。レンズはショップ側で判定時にマニュアル焦点とオートフォーカス切換スイッチがきつく、オートフォーカス側に切り替えられなかったのではないかと推測。カメラシステムとしては、シャッターベトベト、レンズ後玉内部塵以外は完調。

 いよいよシャッターベトベト修理と言う事で、ネット情報を基にカメラ本体の分解を開始。配線周りの半田を除去し、カメラ骨格からシャッターユニットをごっそり降ろす感じ。ベトベト溶融アブソーバをエタノール洗浄後、シリコンゴムを切り刻んで成型してはめ込み完了。ばらしたユニットや部品を組み付けて元通りに戻すも、シャッターボタンを押したらAFは動作するもののシャッターの代わりにフィルム巻き戻し軸が回ってしまう始末。非常に沈んだトホホな気分。剥がしたフレキシ基板を再半田付けする時にブリッジしてしまったか、半田付け不良か、はたまたIC類を飛ばしてしまったか。

 翌日、気を取り直して再分解に挑戦。シャッターユニットを降ろして再組み込み時に、前回はきつくてユニット側モータギアとカメラ骨格側ギアの噛み合わせを無理矢理押し込んだので、今回は細心の注意を払いモータを指で回してクイックリターンミラーが上下する事を確認。この辺りは、ネット情報には無かった点。全ての部品を再組み付けし、作動試験。今度はAF、シャッター共正常動作。二度もバラして組み立てる事になった次第。が、フィルム巻き上げが動かない事に気づき、あれこれ探るも結局フィルムを入れないと関連部分は作動しない構造と判明。一安心。これで残るはレンズ後玉内部塵のみ。

 気力を蓄えた後日、いよいよレンズ後玉内の塵状の付着物清掃に着手。機械式カメラのレンズをイメージしながら分解を開始するも、中身はまたもやフレキシブル配線が縦横に。自動焦点駆動関係の電子部品と、レンズ構造がしっかり同居する複雑な構造と判明。気を取り直して分解を進めるもレンズ後玉は最内部で、分解すれどもなかなか目的のレンズに行き当たらない。結局すべてを分解する羽目に。しかも、塵状の付着物は結局カビと判明。外した後玉レンズ一枚一枚をレンズクリーナで拭き、再組み立て。レンズ内外スッキリクッキリとなったものの、前玉ベゼルを割ってしまい愛嬌と諦める事に。結局一週間を費やした。

 早速の試し撮りは楽しいものだった。その昔TVコマーシャルで馴染んだ"ピピッ"という電子音と共に"パシャ"とシャッターを切る感じが、なんともシャッター心をくすぐる。撮影モードも多彩で、深度優先でのピント合致範囲指定(近点と遠点)はまさに空間をマウスクリックして範囲指定する感覚で新鮮。機械カメラとは異なる、空間を電子的に切り取る道具と感じる。写りはここ10年の設計技術、加工精度が生み出した世界に違わない。


悦楽の思い

 機械カメラからこの世界へ足を踏み入れた者としては、EOS-630の殻を開けてビックリ。ICが数個乗ったフレキシブル基板がメカ部分を避けて縦横に配置され、細い配線がアチコチの部品間を結んでいる状態。自動露出化された機械式カメラの時代は露出(シャッタースピードと絞り)のコントロールだけだったので、機械が主人で電気システムは脇役的な造りだった。そうした目で見ると、EOSの様なカメラはIC等の電子部品を駆使し、レンズの焦点制御まで含めて力ずくでメカを御する構造となっている。更に、銀塩から電子受光素子へと感光も電子化されたディジタルカメラは、焦点構造のみ残して全電子化されたカメラと言える。

 機械カメラの場合、写真を撮る側の感性は銀塩への光入量の制御へ帰着するとすれば、現像過程での感光制御まで含め撮り手の側に表現が委ねられる事になる。しかし、自動露出化された機械式カメラやEOSの様なオートフォーカス電子化カメラは、補正機構があるとは言え表現に制約が有りはしないか。表現の幅を広げるため、わざわざ電子化されたカメラを手動で使う事になりはしないか。この場合、機能としては機械式カメラと同等となる。見えるがままに現実世界を写し込む精緻な写真を撮る機械としては、EOSの様なオートフォーカス電子化カメラが目指す所となるが、絵画の如く感性に訴えかけるような写真が撮れるカメラとしては、ピンぼけや露出に変調をきたす様なカメラに分がある場合もある。LOMOが絵の様なポップで面白い写真が撮れると人気な理由の一端である。

 またディジタルカメラとなると、現像過程での感光制御部分が画像ソフトウェア上での画像補正に置き換わる事になる。こちらの場合は何でも有りで、銀塩のソラリゼーションは言うに及ばず、表現の幅が飛躍的に広がると考えられる。銀塩をスキャンするにしろ、ディジタル化された写真には今まで表現されたこともない様な新しい試みが成される可能性が大きい。


[1]カメラと戦争、小倉磐夫、朝日新聞社、朝日文庫
[2]ドイツカメラの本、佐貫亦男、株式会社小学館、小学館文庫
[3]ライカ解体新書、田村彰英、成美堂出版、SEIMIDO MOOK
[4]ライカとモノクロの日々、内田ユキオ、株式会社竢o版社、笊カ庫
[5]ライカ解剖学、大西真一、辰巳出版株式会社、タツミムック
[6]ライカ通の本、円谷円、株式会社小学館、小学館文庫
[7]中古カメラ屋通の本、円谷円、株式会社小学館、小学館文庫
[8]ノスタルジックカメラマクロ図鑑ポケットvol.3、押江義男、株式会社ネコ・パブリッシング、NEKO MOOK 62
[9]使うリコーGR、田中長徳、双葉社、クラシックカメラ Mini Book Special issue
[10]悦楽GR、青山祐介、株式会社竢o版社、笊カ庫
[11]無手勝流GR1読本、田中長徳、株式会社アルファベータ、カメラジャーナル BOOKS 4
[12]絶対ニコン主義!、マニュアルカメラ編集部編、株式会社竢o版社、笊カ庫
[13]往年のキャノンカメラ図鑑、マニュアルカメラ編集部編、株式会社竢o版社、笊カ庫
[14]スローカメラの休日、田村彰英、株式会社竢o版社、笊カ庫
[15]120%オートハーフを楽しむ本、Ryu Itsuki、株式会社竢o版社、笊カ庫
[16]ハーフサイズカメラ道楽、飯田鉄+良心堂、株式会社竢o版社、笊カ庫
[17]ソビエトカメラ党宣言、中村陸雄、原書房
[18]Fantastic Camera Gallery、http://fantastic-camera.com/
[19]やさしいカメラ修理教室、大関通夫、株式会社朝日ソノラマ、クラシックカメラ選書 20
[20]ジャンクカメラの分解と組立に挑戦!、水滸堂ジャンクカメラ研究室、株式会社技術評論社

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