カメラの魅惑

 カメラに興味を抱いたのは小学高学年。1964年3月に「トップ16」という当時500円の16mmフィルムカメラを通販で手に入れた事から始まる。今にして思えば、その頃から通販を利用していたのかと我ながら驚く次第。
 出来上がりを期待し、せっせと身近な被写体を撮っては街中の写真屋さんへ通ったものである。

 学生時代に初めて本格的なカメラ「OLYMPUS PEN-FT」を購入、ロータリーシャッターと広告の美しさに魅せられたのがきっかけだったと思う。
 暗室に入り浸っていた友人を覗き、よく白黒現像焼き付けを手伝った思い出がある。

 職に就いてから、その「PEN-FT」を下取りにして「OLYMPUS OM-2N」に乗り換えた訳だが、今あの「PEN-FT」を持っていればと悔いる事しきり。(数年前、中古で再入手)
 「OM-2N」購入当時は、仕事上CANON、NIKONのプロ仕様機を使う事も多々あり、周りにそれぞれの愛好者も多く居てそれらの素晴らしさを実感していたものの、やはりOLYMPUSの先進性を帯びた雰囲気からは逃れられなかった。
 日課として写真乾板を現像し、また、白黒写真焼き付けに絵心を加味すべく挑戦した時代である。この頃は、長尺白黒フィルムを採寸しパトローネ詰めしたりもした。今では思い出の暗室は改装され無くなっている。スクリューマウントのペンタックスSP使いの友人が居て、シンプルな一眼レフの使い回しの良さも印象深い。

 子育てカメラとして、結構な台数を撮りつぶす程に写真を撮った経験から、どうも写真はレンズに尽きるとやっと感じ始めた次第。そこで、様々な機種・レンズを撮り試す誘惑に駆られ、ついに中古クラシックカメラ、オモチャカメラの世界にのめり込む事となる。現在は、往年の名器と称されるカメラの格安中古(時にはジャンク品)等を一台ずつ試している所である。


[1]安原製作所回顧録、安原伸、株式会社竢o版社、笊カ庫
 刊行間もなく書店で見かけた時には、当時のカメラ雑誌に掲載されていた安原一式というカメラが思い出され、思わず手にした。1999年3月に発売された安原一式の顛末が興味深く、珍しく一気に読み切った。
 安原一式は小規模な会社組織で製造販売していたものとばかり思っていたが、違った。安原氏個人のそれこそ理想型の産物だった事をこの本で知った。ひょんな事から中国国営工場で彼の構想していたカメラが具現化し生産される事になった顛末、特にも当時の彼の国の描写には数度滞在した事がある者として、その場に居合わせているかの様な臨場感を感ぜずにはいられなかった。
 安原一式は、雑誌などではいわゆる新規発売のレンジファインダーカメラとしての紹介・解説であったが、読後感としては通常のメーカー製カメラと同じ範疇で捉えられないものだと理解した。私には別掲「DAC変換の悦楽」で触れた内容を想起させられる部分が多々あった。オーディオ界の場合、自分で設計し基板メーカーに発注製作したオーディオ関連基板を領布して下さる方々が居られるが、このやり方をカメラで実践したのが安原一式ではなかったのか。自分で設計したカメラをどこそこかの製造会社へ発注生産し同好の士へ領布する、これが安原氏がカメラ界で行った事ではなかったのか。(2008年1月30日初版)

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