XL-Z505


XL-Z505
VICTOR XL-Z505

 可聴範囲内、特に低周波領域でのノイズを少なくするという VICTOR のK2方式を試聴すべく探していたところ2コインのジャンク品ながらも掘り出し物があり、やけに大きくて重たい XL-Z505 がやってきた。

 「短時間の簡単なテストをしたところ電源が入り、トレイの開閉はできましたがCDを入れても読み込まず回転音もしませんでした。」と云う代物だったが、日食騒ぎのあった翌月のお盆真っ最中の夜、恐る恐る筐体を開けてみた。

XL-Z505 Construction
VICTOR XL-505 内部構造

 CD挿入口付近が不自然に大きく凹んでおり、CDをマウント後に回転しようにも凹んだ筐体にCDが挟まってしまい回転しない状況となっていた。ピックアップごとCDマウント構造全体を外して凹んだ筐体中央を力ずくで真っ直ぐに直して見ると、トレーベルトの劣化が原因と思われる不調が時々発生するものの何とかCD初期読込が行われる様になった。この様子だとCDを正常に再生出来そうだと言う事で、筐体内部のオーバーホールは後回しにして先ずは曇っていたピックアップを清浄し、CDを完全にマウントしない時にはマウント動作終了間際にトレーを指で一押ししながらの試聴と相成った。

 VICTOR の K2 は1ビットD/A変換を採用している。刄ー方式と呼ばれるデジタル値をパルスの密度に変換する方式は、量子化誤差によるノイズ成分が低周波領域ほど少なく高調波領域ほど多くなる特性を有しているが、デジタルフィルターで可聴範囲外の高調波がカットされるため可聴範囲内、特に低周波領域でのノイズを少なくしている[19][20][39][40]。更に、この高調波領域ほど多くなる量子化ノイズは、回路的に量子化時に高域側に透過性の良い伝達関数処理をする事により、再生信号周辺の低周波領域から高調波領域へ掃き出す事が出来る[20][39][40]。この処理をノイズシェーパーと呼び、K2ではVANS方式と呼ばれる4次のノイズシェーパーで再生信号周辺の量子化ノイズを高調波領域に追いやり、その後にフィルタ処理して高調波領域を減衰させている。言い換えればD/A変換時の仕掛けによってディジタル起因の雑音を低減する方式とも言える。

Noise Shaping
ノイズシェーピング特性概念[20][39][40]

 試聴は、いつもの様に Everything Must Change のJAZZボーカルCDと常用リファレンスバイオリン曲CDとした。CDを取っ替え引っ替え聴き比べると、今まで聴き比べたどの機種よりも音に濁りが無く透きとおった楽曲本来の響きがある。再生レンジも広く、現用機種となっている PD-N901 と好勝負。PD-N901 は折り返し雑音付加型とも言える高域補償を行っており、超高域に心地良い反響音の様な音を伴い情感をそそるが折り返し雑音付加の影響と思われる位相の揺らぎが感じられる。一方、XL-Z505 はあくまでも高域まで透明かつ楽器の定位が良いと感じられる。ピアノがピアノらしく豊かな響きで朗々と鳴っている。更に、ピアノの傍らでバイオリン奏者と同じ立ち位置にいる様な音場を醸し出している。K2方式の目指している方向性を感じ取れた気がする。

 またまたこれは困った。PD-N901 のハスキーな再生音も魅力的、XL-Z505 の純度が高くて奏者と同じ立ち位置の音場も捨てがたい。

 朝夕冷気を感じ始めた翌週、CDを完全にマウントしない時があるのでCDトレイベルトを最近入手したベルトと交換するつもりで分解した所、ベルトの太い事。太くても1.6mm厚が多い中2倍ほどの厚みで、それは丈夫そうなものである。交換するつもりのものはサイズこそピッタリだが1.6mm厚。今までの物はまだまだしなやかではあるが滑っている。ベルト表面の古いゴム組成をアルコールでゴシゴシ拭き取って中身の新鮮な面を露出する程度で交換しない事とした。各所注油とピックアップサブフレームのゴムダンパーにいつものゴム部材再生シリコン系スプレーの液剤を塗り、再組立。古くて外装はデコボコ傷だらけながらも XL-Z505 はリファレンス機に最適と思い立ち、比較試聴用常設機として DP-1001 と入れ換えるに至った。

 その後国連からの地球沸騰化発言が話題となった酷暑の中、レコード再生や数十年ぶりのカセットテープ再生と併せて初期マルチビットDACの比較試聴を繰り返していたが、最終的にこの VICTOR XL-505 に落ち着いてしまう事が多かった。先達の方によると[38][39][40][41]、DACのビット拡張技術には「CDの16ビット情報に正弦波近似やフィルタリング処理で下位データを生成して滑らかな20ビット信号にする【美音化】タイプと、CDの16ビット量子化前の手がかりを元に補正値を生成して原音に近づける【原音追求】タイプがある」、前者は「D.R.I.V.E.」や「ALPHA」、後者は「K2 プロセッシング」や「PRO-BIT」との解説である。折り返し雑音を付加していると考えられる「LEGATO」等も前者に属し、ハイパーソニック効果を利用して、超音波付加により「人間が聴覚的に高忠実度っぽく感じる再生」となっているとの指摘[41]である。一方後者は「22kHzという帯域内でのデータ的な高忠実度再生」[41]を追求している。我が駄耳がDAC比較試聴で最終的に XL-505(K2 プロセッシング)に落ち着いてしまうのは、ここいら辺に遠因があるのかも知れない。PRO-BIT(YAMAHA)も試聴せねばとの思いである。


[1]tsdoctor HOME PAGE、https://tsdoctor.web.fc2.com/dp1001.htm
[2]Philips DAC、http://www.lampizator.eu/lampizator/LINKS%20AND%20DOWNLOADS/DATAMINING/tda1547.pdf
[3]お気楽オーディオキット資料館、http://www.easyaudiokit.com/
[4]DAC63S-mini/お気楽DAC2の製作、http://yasu-audio.com/dac63s_01.html
[5]DAC(DAC63S-mini)、http://www.geocities.jp/mkttid/dac63s.html
[6]フルーエンシ情報理論、http://www.jst.go.jp/kisoken/seika/zensen/04toraichi/
[7]EMISUKEの電子工作部屋、http://www.geocities.jp/aaa84250/HAIFU_16.htm
[8]Chu Moyタイプヘッドホンアンプの製作、http://www.minor-audio.com/bibou/amp/headphone_amp2004.html
[9]Web2.0が面白いほどわかる本、小川宏・後藤康成著、中経出版、中経の文庫495
[10]Pioneer レガートリンク解説、https://jpn.pioneer/ja/carrozzeria/archives/products/highend/lineup/rs-a1x2/function_2.html
[11]レガートリンク付きCDプレーヤについての検討(その2)、https://blogs.yahoo.co.jp/kiyo19371122/29056796.html
[12]折り返し雑音とフィルタ、http://www.gem.hi-ho.ne.jp/katsu-san/audio/next_gen/alias/aliasing.html
[13]サンプリング周波数と音質、http://aok.la.coocan.jp/sample_hz.htm
[14]お手軽シリーズ1.5の巻き、http://www20.tok2.com/home/easyaudiokit/okiraku/okiraku15.html
[15]「在庫限り」の誘惑に負けるの巻き(FN1242A)、http://www20.tok2.com/home/easyaudiokit/FN1242A/FN1242A.html
[16]心理学的,及び生理学的実験による超音波音響信号の知覚に関する考察、杉本武士、筑波大学大学院博士課程システム情報工学研究科修士論文、2003
[17]AL24 Processing、https://www.denon.jp/jp/blog/3817/index.html
[18]ONKYO 技術情報VLSC、https://www.jp.onkyo.com/audiovisual/technology/
[19]ビクター K2 テクノロジー技術情報、https://www.jvcmusic.co.jp/k2technology/aboutk2/technology.html
[20]二次元アレイスピーカを使った音場の形成とそのシュミレーション、http://tamlab.yz.yamagata-u.ac.jp/STUDY/スピーカ/speaker.html
[21]「Supreme D.R.I.V.E.(仮称)」開発!、http://www.kenwood.co.jp/newsrelease/2000/press20000619.html
[22]「D.R.I.V.E. with 32fs & 22bit resolution」、http://d.hatena.ne.jp/tma1/20070105
[23]アナログーデジタル変換、橋本研也、http://www.te.chiba-u.jp/~ken/lecture/Trans-3.pdf
[24]高速化に適した周波数変調方式刄ーADC、前澤宏一、松原渉、酒向万里生、水谷孝、http://www3.u-toyama.ac.jp/maezawa/Research/IPArev2.pdf
[25]AD/DA変換器とディジタルフィルタ、山崎芳男、日本音響学会誌 46巻 3号:1990、https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasj/46/3/46_KJ00001455904/_pdf/-char/ja
[26]デジタルとアナログの協調と共存、小林春夫、https://kobaweb.ei.st.gunma-u.ac.jp/news/pdf/koba20071016-2.pdf [27]AD/DA変換器、岩田穆、集積回路基礎 第10章、http://www.dsl.hiroshima-u.ac.jp/~iwa/text/LB10.ADC.pdf
[28]SL-P70仕様、https://audio-heritage.jp/TECHNICS/player/sl-p70.html
[29]アナログ・デジタル変換の基礎、村口正弘、マイクロ波工学2009.07.10
[30]1ビットD/A変換アレイを用いたD/A変換方式、谷泰範、信学技報、CAS94-9,VLD94-9,DSP94-31、pp.63-70
[31]ONKYO Integra C-1E解説、https://audio-heritage.jp/ONKYO/player/integrac-1ever2.html
[32]Victor XL-Z900、https://audio-heritage.jp/VICTOR/player/xl-z900.html
[33]SONY DAS-R1a、http://audio-heritage.jp/SONY-ESPRIT/etc/das-r1a.html
[34]Leica a la carte:SONY CDP-EX700、http://m3leica.blog66.fc2.com/blog-entry-556.html
[35]Sony CDP-710、https://www.hifiengine.com/manual_library/sony/cdp-710.shtml#comment-29462
[36]1ビットDACとR-2R DACの音質差 -- 名チップ PCM56、https://ameblo.jp/etsuo-okuda/entry-10479409645.html
[37]DACが16bitで何が悪い!、ステレオ時代、ネコ・パブリッシング、vol.21 pp.85-95
[38]CDの16ビットデータを20ビット化するビット拡張技術のしくみと効果[前編]、柴崎功、MJ無線と実験、誠文堂新光社、2008年8月号(第95巻 第8号 通巻1026号)、pp.84-94
[39]CDの16ビットデータを20ビット化するビット拡張技術のしくみと効果[中編]、柴崎功、MJ無線と実験、誠文堂新光社、2008年9月号(第95巻 第9号 通巻1027号)、pp.84-93
[40]CDの16ビットデータを20ビット化するビット拡張技術のしくみと効果[後編]、柴崎功、MJ無線と実験、誠文堂新光社、2008年10月号(第95巻 第10号 通巻1028号)、pp.84-92
[41]素子再生音に革命をもたらしたフルエンシーフィルター、柴崎功、MJ無線と実験、誠文堂新光社、2009年4月号(第96巻 第4号 通巻1034号)、pp.84-93
[42]ヤマハプロビット方式CDプレーヤーの詳細、柴崎功、MJ無線と実験、誠文堂新光社、1996年9月号(第83巻 第9号 通巻883号)、pp.94-101

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