TA2020-020

 真空管アンプ熱も一段落しCDに聞き入る穏やかな日々を過ごしていた所、IC部品から成るディジタルアンプがブラインドテストで超高級アンプをも凌ぐ音として評価されている記事を目にした。しかも五千円弱のキットがオーディオ専門メーカー製フラグシップ機と互角に渡り合っているらしい。こうしたシチュエーションに反応してしまう私は、さっそく興味を惹かれてしまった。

 調べてみるとディジタルアンプは、オーディオ信号をパルス幅変調後ローパスフィルターで復調する事により増幅特性を持たせている[1]らしい事、電源電圧を切り刻んでいるだけなので信号が増幅素子の中を通らず、ある意味入力直結とも云える増幅原理故低損失で発熱がほとんど無く、またスピーカーに対する応答が早く音が良いらしい事が見えてきた。トライパス(TRIPATH)社の音響製品用組み込み部品としてのICディジタルアンプTA2020-020[2]が十年程前から出回っており、その特性に目を付けた部品販売業のカマデンがアンプキットとして販売していた(販売完了)。現在は電子部品販売業の若松通商がキットとして販売しているものやTA2020を組み込んだ製品(RSDA202)が入手可能である。トライパスTA2020-020のキットはその後自作者の間でブームとなっていた様であるが、このICに目を付けたカマデンのスタッフには感嘆する次第である。

TA2020-020
ディジタルアンプIC TA2020-020(初期米国産)

 ICアンプと聞くと、私としては郷愁の念が湧いてくる。三十数年前であろうか、マイクロプロセッサが出現し、アナログ系のアンプ類もICという単語がもてはやされ、当然の如くオーディオアンプもICを採用と銘打った宣伝がなされた時期である。通常のアナログ回路を小型の素子で組み込み、メタルパッケージしてICの様な外装で仕上げたICアンプが出回っていた。SDKなんとかシリーズ等のICが懐かしい。しかしながらそれはあくまでもディスクリート構成のアナログアンプで、発熱もそれなりのものであった。

 TA2020-020[2]は隔世の感がある。中身は確かにディジタル処理である。電源電圧を入力信号に従って切り刻んでパルス幅変調し、出力時にローパスフィルターで復調する事により増幅している。信号が増幅素子の中を通らず、従って音質劣化が少ない。低損失故、発熱もほとんど無い。

 このディジタルアンプICに非常に興味が湧き、自分で音を聴かずにはいられない心持ちになってしまった。先達の自作レポート等[3][4][5][6][7]を読み、まずは若松キット(コムサテライト)とこまごまとした部品、そしてデザインが気に入ったケース[7]等を準備した。肝心のTA2020-020は、コムサテライトで見かけた初期生産品とした。(下記参照)

コムサテライト:トライパスTA2020-020 の市場在庫を調査しているときに、懐かしい米国生産のものが見つかりました。米国生産はTA2020-020 が生産開始された2000年あたりの短期間だけのようです。現在の韓国や中国生産の機能改良される前のパターンを使用している様です。米国産はパターンが緻密でなく余計な回路もついていなかったので、近年のものと比較すると音質的に良かったとの評価も耳にします。気になる方はぜひどうぞ。なお、トライパスのICは流通在庫のみの入手となっておりますが、日々市場価格が上がってきております。今後さらに値上がることが予想されます。ご了承下さい。

 ディジタルアンプを調べ始めたのが2007年初夏で、手元に部品が揃ったのが冬、2008年3月現在やっとケースの穴開けや部品配置イメージがまとまった。この先ケース加工、部品組み付けとあり、完成までにはまだまだ時間がかかりそうである。

 梅雨明け宣言とは裏腹に雨の日が多くなった7月下旬、やっと取り付け金具やケースの穴開け加工が終了し、一気にアンプ部ポップ音回避用時定数リレー回路を組み立てた。これらの完成した基板や部品類をケースへ組み込むのは至難の業だった。すっきりスマートな小型ケースを選んでしまった為にあまりにも余裕がなかった故である。仕方なく加工済み取り付け金具を更に切り貼りし、接近しすぎて電気的に接触しそうな箇所はテーピング処理と、それはもう部品間のミリ単位の攻防である。電源はノートパソコン用ACアダプタのケース無しハダカの物を内蔵するので電磁ノイズの混入を心配したが、幸いな事にシールド用の囲いが付属していたのでそのまま活用、一点アースとなる様アースポイントに気をつけながら配線し、肝心のTA2020-020はパソコンCPU放熱器取り付け用熱伝導シールで放熱フィン形状のケース側面へ接着。

ケースへ押し込んだ基板や部品
ケースへ押し込んだ基板や部品

 これまでの経験からすると勘違いや配線ミスが心配ではあるが、あまりにもゴチャゴチャと狭い中に詰め込み過ぎて最終チェックの気力も萎えてしまった。どこか間違いがあれば発煙かICがおシャカになって自ずと判るだろうと覚悟し、そのまま娘のマイクロコンポ付属スピーカと数年前中古屋さんからジャンク品で手に入れて時々使用しているラインアウト付きポータブルCDプレーヤを接続しての音出しテストを敢行。恐る恐るスイッチを入れるとLEDが点灯、シ〜ンとしている。ヒューズも飛ばない様なので大きな配線間違いは無いと判断し、CDプレーヤへそこいら辺にあったニューヨークで活躍中の若手JAZZピアニストのCDをセットし、いざ、再生。出ました、左右から雑音無しのキレイな演奏が。数曲の試聴感としては、濁りがなく帯域も広そうである。ケースへ文字入れするレタリングシールの保管場所をやっと思い出したので、手順が全く逆となるがRIGHT、LEFT、VOLUME等の文字入れとクリアラッカーによる文字の固定等を行い、いよいよLM-011系統での本格試聴と相成った。

TA-2020-020アンプ正面
TA-2020-020 ディジタルアンプ正面


TA-2020-020アンプ裏面
TA-2020-020 ディジタルアンプ裏面

 スイッチを入れると緑のLEDランプが点灯、4、5秒後にカチッとリレー動作音がして音が出始める。JAZZ数曲とリファレンスバイオリンCDの試聴。レコーディングスタジオの雰囲気やマイクの存在まで気付かせてくれる。奏者の指の強弱や数本絡み合った弦の響きまで聴き取れる。翌日更にCDを取っ替え引っ替え聴くと音質は耳にした事がある高級アンプのそれと違わず、豊かな音場がそこには有る。更に事前情報通り数時間の試聴でも全く熱くならない。このアンプの再生能力を思い知った次第。現用真空管アンプはそれこそ増幅過程で帯域が狭まり細かな音が抜けていると思っているが、このTA2020-020アンプはその対極にあると実感。これは困った。今後TA2020-020が醸し出す高級アンプ音場の仲間入りするか、はたまた今まで通り細々と癖のある音場再生を貫くか、悩みどころである。


悦楽の思い

 またまた、それにしても、である。  先達の人達は既に約十年も前にTA2020に着目し、よりよい音を求めてオーディオグレードの部品を採用したり、TA2020-020のデータシート[2]を読み解き回路そのものや回路定数を変更したり、組み付ける直流電源の方式や電源トランスを色々試して音質に及ぼす影響を調べたり[3][4]と、様々な工夫を凝らしてこられた様である。素晴らしい人達の何と多い事か。

 今年に入りネット情報ではトライパス社が無くなっているとの事。TA2020-020も市場在庫のみで入手が更に困難になっているらしい。そんな中、中古IC屋さん(古い機器の基板から外したIC販売)でTA2020-020を見かけた。パチンコ台基板から出たらしい。そもそもTA2020-020は機器組み込み用としての設計製造なので、アンプを必要とする機器に入っているとは思われるが、まさかパチンコ台にも入っているとは。TVやオーディオコンポもカタログには1ビットアンプ使用との記載が見受けられ、至る所にお手軽パルス幅変調方式ディジタルアンプが使われている時代である。今回のアンプ試作で実感したこれらディジタルアンプの能力から推察すると、私たちは日常的にすばらしい再生機器に囲まれている事になる。残るは、いかに良い音源かである。


[1]TA2020-020、Tripath Technology, Inc. Technical Information
[2]TA020と低音の量感-nabeの雑記帳、http://nabe.blog.abk.nu/082
[3]自作ディジタルアンプ〜TA2020-20〜、http://ta2020.huuryuu.com/
[6]ディジタルパワーアンプ TA2020、http://cafe.mis.ous.ac.jp/sawami/Tripath2020memo.html
[4]TA2020デジタルアンプ、http://www.geocities.jp/ja4cam/digitalamp.html
[5]STEREO 20W (4Ω) CLASS-T DIGITAL AUDIO AMPLIFIER DRIVER TA2020、www.e-ele.net/DataSheet/TA2020.pdf

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