SU-A70


SU-A70
Technics SU-A70

 A級アンプに興味が湧き前掲 AX-F1 に巡り会った顛末は既に紹介した所であるが、コンパクトサイズA級アンプを探していた時に SU-A70 なる、他機種とは佇まいを全く異にするものを見かけた。Technicsである。筐体がオールアルミで、一種通信機然としたオーラを放っている。我が試聴遍歴の中でも異例となる投資額6コイン強を投じた完動品の入手である。

 Wikipedia[1] によるとTechnics社のアンプの変遷は次の通り。
1970年代後半に国内メーカー各社がそれぞれ独自に「擬似A級」と呼ばれる増幅方式のパワーアンプを発表・製品化したが、中でも最も長期に渡り改良を進めたのが同社である。パワーアンプ「SE-A1」(1977年)の「Class A+」から始まり、「Strate DC」「Class AA」、「New Class A」、「New ClassA Computer Drive」「MOS ClassAA」等、回路方式により幾つかの呼称が存在した。事実上最後のセパレートパワーアンプとなったSE-A1010MK3にもMOS ClassAA回路が採用されている。

 当時は各社立派な出で立ちの高級アンプを発表し、見かけていたが、高嶺の花で店頭試聴がせいぜいだった。Technics がかなり熱を入れて疑似A級に取り組んでいた事を今更ながらに知った次第。

 さて、SU-A70である。「MOS Class AA」とのプリントがそれらしい雰囲気を醸し出している。前述の解説に拠れば、最終モデル高級アンプにも採用されていた回路方式らしい。この回路方式は、カタログでは次の様に解説されている。[2]
クラスAA回路では電圧増幅と電流供給を個別のアンプで行っており、クラスAAブリッジ効果によってスピーカーへの電流は全て電流供給アンプから供給されています。これにより、電圧制御アンプは出力ゼロの理想的な完全A級動作で働き、優れた素子の特性を発揮させています。MOSクラスAA回路では、A級動作電圧制御アンプに、入力インピーダンスが高く、リニアリティに優れたMOS FETを採用しており、低歪率を獲得しています。また、電流供給アンプには、ロスが少なく大出力動作で定評のあるバイポーラ・トランジスターを採用しており、強力な電流供給でスピーカードライブ力を改善しています。

MOS Class AA Block Diagram
Class AA ブロック図[2]

 A級の場合、通常の回路方式では最終段の増幅素子に常時一定電流を流し続ける(バイアス)必要があり、大型アンプならいざ知らずどうしても仕掛けが大がかりになる。A級とはいえ物量を投入出来ないランクのアンプでは、各社様々に工夫を凝らして信号の大小に比例して信号振幅をカバーする程度に動作点を動的に変化させる擬似的なA級動作をさせている。ところがTechnics社クラスAAではバイアス可変方式とは全く異なるアプローチを採用していると見た。クラスAA方式では前段の信号増幅素子は小電力A級動作増幅に留めてA級の利点を生かし、後段に配した大容量電流駆動素子が前段の小電力電圧増幅素子からの制御に従ってスピーカーへの出力電流を制御して大電力増幅を行うと理解出来る。最終段では電流増幅となるが入力信号を増幅するアンプとしての働きは通常方式と同じ事になる。一般的な電圧増幅の基本原理を再考し、電流増幅へ発想転換した考え方に感銘を受けた次第。

Inside of SU-A70
SU-A70内部

 届いたものは馴染みのあるハイコンポサイズより一回り大きなものだった。早速外装ゴシゴシ後、内部清掃すべく筐体蓋を開けて唖然としてしまった。巨大なRコアとおぼしきトランスがスペースの半分を占めている。Rコアトランスの利点や漏洩磁束の影響については下記参照願いたい。[3][4]
アンプ用電源トランスは、増幅電源供給の要求に応えるために、高能率であることが重要。しかし大電流が流れる際には、漏洩磁束がノイズ源となり音質が劣化。Rコアトランスは、円形断面・ノンカットコアに、コイルを緊密に巻線。均一な磁束形成により、極めて少ない漏洩を実現。コア形状による高い放熱効果により、過負荷時の蓄熱量に比べて、早い放熱。繰り返しの過負荷に、非常に強いトランスです。

 大きなRコアトランスと最終段電流増幅方式による音や如何にとの思いで慣らし運転を兼ねてCDを二枚ばかりかけた後、定番の Everything Must Change のJAZZボーカルCDと常用リファレンスバイオリン曲CDによる試聴である。

 一聴してレンジが広くて抜けが良く、味付けの無い透明な空気感のある素直な音場との印象である。奏者の近くで聴いている心もちとなるが、その演奏空間が広く感ぜられ各奏者の立ち位置が明確に分離している。ピアノが瑞々しく、濁りのない綺麗な響きを放っている。しかしながら全体的には音の粒が乾いていて力強さが伴わず、演奏が痩せて聞こえる。これまで目にしていたA級アンプ評とは若干異なると感じる。どちらかといえば、前掲トライパス TA2020-020 ディジタルアンプのPWD(パルス幅変調)との類似を感じる次第。ボーカルも混ざりけ無く綺麗に聞こえるが、バイオリン曲同様情感が絡んで来ず、個人的な好みからすると今ひとつ曲想に入りきれないきらいがある。

 私の世代はナショナルキッドのCMを覚えている最後の世代かも知れない。学生の頃家電屋さんのバイトで、当時のセパレートステレオセットなるものを購入なさったお宅へ設置しに出かけ、Technics もよく据え付けて歩いたものである。私のこれまでの松下(Technics、Panasonic)ブランドに対する印象は保守的なものがついて回っていたが、最近同社の家電製品を見て認識を新たにしつつある。大手の技術力を背景に、かなり革新的な内容を製品に反映している様である。DJ用とは云え、いまだにダイレクトドライブのレコードプレーヤを販売し続けていたり、ストーブの回収交換リコールは5年以上にもなろうか。そして今回の電流増幅への発想転換である。なかなかに感慨深い。


[1]Wikipedia:Technics、http://ja.wikipedia.org/wiki/Technics
[2]ステレオパワーアンプSE-A3000Ver.3.0の仕様、オーディオの足跡、http://audio-heritage.jp/TECHNICS/amp/se-a3000ver3.html
[3]Rコアトランス、http://kitamura-kiden.co.jp/product/rcore/
[4]Rコアトランス、、http://www.pnxcorp.co.jp/setsumei.htm

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