FR-155GX


FR-155GX
ONKYO FR-155GX

 DACの種々方式を調べていると、同じメーカーでも時代によってDACに変遷がある事が見て取れる。ONKYOの場合、前掲C-711Mに見られるディジタルフィルターの代わりに補間処理を伴うディジタル演算処理(DSP)によるFPCS方式の後、ベクトル発生器を採用したVLSC方式[18]へ移行した模様で、その後最近に至るまで長い事VLSCを踏襲している。このベクトル発生器によるフェーズロックループを一種のローパスフィルタ的に使用[18]する、かなりアナログ処理的な方式は他社に見られないもので、全く次元の異なる音場を醸し出すものか、はたまたさほど差違のないものなのか、これは聴かずにはいられない。

 このVLSCは、幸いにも同社155シリーズミニコンポの中に採用モデルがあり、たまに激安品で見つかる事がある。しかし、探す事1年以上、日食騒ぎの翌年、気候が大きく変動して桜の開花が一週間も遅れた遅い春先に、片方低音が出ないというスピーカーと合わせて約5コインでやって来た。筐体天板が大きく凹んでいるものの、再生は振動に敏感ながらもかろうじて大丈夫という代物。スピーカーはVLSC試聴後に整備してみるつもりである。凹んだ天板は、こういう時のために準備してある当て金の上でガンガンたたき直し、何とか違和感ない程度となった。

 動作確認をすると、CD再生はTOC読込が時々不安定となるが、一応再生は出来る状態。MDもCDからのダビングモードで録音再生に問題なし。入手に一年近く費やしたせいもあり、どんな音がするのか居ても立ってもおられず、清掃&整備はそっちのけでまずは試聴する事とした。

 定番 Everything Must Change のJAZZボーカルCDと常用リファレンスバイオリン曲CDによるVLSC試聴である。一聴して何のストレスもなくスーっと耳に入ってくる音場に感心。我が駄耳には低域から高域までバランス良く、常用機PD-N902とほとんど変わらない音場表現と感じた。FR-155GXの方が高域に濁りが無く繊細な響きが伴う。バックのドラムスのシンバル音が微細に変化している様まで聴き取れる。耳にストレスがないのは音の粒に鋭利な所が無いからではないかと感じられる。高級アナログシステムのレコードの音に通じる所がある。これは常用機PD-N902と甲乙つけがたい。PD-N902の方が若干高域に癖があり、我が駄耳にはコクとして耳に心地良い。しかし、困った事態である。

 VLSC は前述の様にDA変換によりパルス性ノイズが含まれている信号を、ベクトル発生器を用いてパルス性ノイズを含まない信号として再生成[18]するもので、フェーズロックループを一種のローパスフィルタ的に機能させていると云えるが、このことがアナログのレコードの様に何のストレスもなくスーっと耳に入ってくる音場を醸し出すのかも知れない。

 C-711Mで試聴した補間処理を伴うディジタル演算処理たるFPCSは、その処理過程で微小レベルの余韻が欠落し高域側の一部音域を強調しすぎる印象を伴ったが、その後方針転換したと思われ現在もONKYOの主流方式となっているVLSCは、さすがに他社と一線を画すだけのものがあると確信した次第。

 CDプレーヤの音を決定づける主たる要因がDACであるとの前提で、様々な方式のDACを採用したCDプレーヤの比較試聴を行っている訳だが、前掲DP-SE7とFR-155Aでも行ったCDトランスポートのみ機種依存でDACを共通とした場合の比較試聴を今回のFR-155GXと前掲C-711Mを使用して再確認。FR-155GXには他のONKYO 155モデル同様、光ディジタル入力信号を内蔵DACによってアナログ信号化して出力する機能がある。C-711M光ディジタル信号をFR-155GXへ入力してのC-711MトランスポートによるVLSCとC-711M自身(FPCS)の比較試聴は、前掲C-711Mの試聴感(FPCS)と今回FR-155GX (VLSC)の試聴感と全く重なる。一方、C-711Mトランスポート+VLSC (FR-155GX)とFR-155GXトランスポート+VLSC (FR-155GX)の比較試聴結果では、我が駄耳ではC-711MトランスポートによるVLSCにも関わらずFR-155GX(VLSC)と聴き別ける事が出来ない。この事実はしかしながら、あくまで数コインジャンク品修理再生入門機(ミニコンポやハイコンポ)による比較試聴であり、高級CDトランスポートの世界はとてもうかがい知る事は出来ない。

 その後、CD化されていない音源をどうしても聴きたいとレコード再生系を揃え始めた子供のミニコンポが不調との事で、レコード再生音に近い音場を醸し出すと気に入っていた本機(その後スピーカーは155GXシリーズ品を入手済み)と入れ換える事に。

 数年経過した金環食の翌年、音が飛ぶとの報が。緊急処置としてSDメモリやmp3等も再生できる代替機と入れ換えに届いた155GX、光ピックアップ周りの調整を一晩試したがどうしても完調に至らず断念。さてどうしたものかと部品ストックをゴソゴソ探すと、あるではないですか、同じ型番の光ピックアップが。以前他のCDプレーヤを生き返らすべく使い回した物だった。まだほとんど新品と云う事で早速移植。155シリーズはMDユニットの下側にCDユニットが隠れており、特にもこの155GXは一旦全てをバラバラに分解しないと肝心の光ピックアップへアクセスできず、難儀した。

FR-155GX調整中
光ピックアップ調整及び再生確認中

 MDユニットが邪魔しない様に基板を借り組みし、ショート予防で基板裏に紙を挟んでの調整を2〜3度繰り返すと、満足のいく耐衝撃性と音質が得られた。タイミング良く届いたばかりのJAZZフルートアルバム4〜5枚を試聴するが、やはりこのモデルは私の駄耳には心地良い。まだまだ現役で活躍してくれよと、送り返す事に。

[1]tsdoctor HOME PAGE、https://tsdoctor.web.fc2.com/dp1001.htm
[2]Philips DAC、http://www.lampizator.eu/lampizator/LINKS%20AND%20DOWNLOADS/DATAMINING/tda1547.pdf
[3]お気楽オーディオキット資料館、http://www.easyaudiokit.com/
[4]DAC63S-mini/お気楽DAC2の製作、http://yasu-audio.com/dac63s_01.html
[5]DAC(DAC63S-mini)、http://www.geocities.jp/mkttid/dac63s.html
[6]フルーエンシ情報理論、http://www.jst.go.jp/kisoken/seika/zensen/04toraichi/
[7]EMISUKEの電子工作部屋、http://www.geocities.jp/aaa84250/HAIFU_16.htm
[8]Chu Moyタイプヘッドホンアンプの製作、http://www.minor-audio.com/bibou/amp/headphone_amp2004.html
[9]Web2.0が面白いほどわかる本、小川宏・後藤康成著、中経出版、中経の文庫495
[10]Pioneer レガートリンク解説、https://jpn.pioneer/ja/carrozzeria/archives/products/highend/lineup/rs-a1x2/function_2.html
[11]レガートリンク付きCDプレーヤについての検討(その2)、https://blogs.yahoo.co.jp/kiyo19371122/29056796.html
[12]折り返し雑音とフィルタ、http://www.gem.hi-ho.ne.jp/katsu-san/audio/next_gen/alias/aliasing.html
[13]サンプリング周波数と音質、http://aok.la.coocan.jp/sample_hz.htm
[14]お手軽シリーズ1.5の巻き、http://www20.tok2.com/home/easyaudiokit/okiraku/okiraku15.html
[15]「在庫限り」の誘惑に負けるの巻き(FN1242A)、http://www20.tok2.com/home/easyaudiokit/FN1242A/FN1242A.html
[16]心理学的,及び生理学的実験による超音波音響信号の知覚に関する考察、杉本武士、筑波大学大学院博士課程システム情報工学研究科修士論文、2003
[17]AL24 Processing、https://www.denon.jp/jp/blog/3817/index.html
[18]ONKYO 技術情報VLSC、https://www.jp.onkyo.com/audiovisual/technology/
[19]ビクター K2 テクノロジー技術情報、https://www.jvcmusic.co.jp/k2technology/aboutk2/technology.html
[20]二次元アレイスピーカを使った音場の形成とそのシュミレーション、http://tamlab.yz.yamagata-u.ac.jp/STUDY/スピーカ/speaker.html
[21]「Supreme D.R.I.V.E.(仮称)」開発!、http://www.kenwood.co.jp/newsrelease/2000/press20000619.html
[22]「D.R.I.V.E. with 32fs & 22bit resolution」、http://d.hatena.ne.jp/tma1/20070105
[23]アナログーデジタル変換、橋本研也、http://www.te.chiba-u.jp/~ken/lecture/Trans-3.pdf
[24]高速化に適した周波数変調方式刄ーADC、前澤宏一、松原渉、酒向万里生、水谷孝、http://www3.u-toyama.ac.jp/maezawa/Research/IPArev2.pdf
[25]AD/DA変換器とディジタルフィルタ、山崎芳男、日本音響学会誌 46巻 3号:1990、https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasj/46/3/46_KJ00001455904/_pdf/-char/ja
[26]デジタルとアナログの協調と共存、小林春夫、https://kobaweb.ei.st.gunma-u.ac.jp/news/pdf/koba20071016-2.pdf [27]AD/DA変換器、岩田穆、集積回路基礎 第10章、http://www.dsl.hiroshima-u.ac.jp/~iwa/text/LB10.ADC.pdf
[28]SL-P70仕様、https://audio-heritage.jp/TECHNICS/player/sl-p70.html
[29]アナログ・デジタル変換の基礎、村口正弘、マイクロ波工学2009.07.10
[30]1ビットD/A変換アレイを用いたD/A変換方式、谷泰範、信学技報、CAS94-9,VLD94-9,DSP94-31、pp.63-70
[31]ONKYO Integra C-1E解説、https://audio-heritage.jp/ONKYO/player/integrac-1ever2.html
[32]Victor XL-Z900、https://audio-heritage.jp/VICTOR/player/xl-z900.html
[33]SONY DAS-R1a、http://audio-heritage.jp/SONY-ESPRIT/etc/das-r1a.html
[34]Leica a la carte:SONY CDP-EX700、http://m3leica.blog66.fc2.com/blog-entry-556.html
[35]Sony CDP-710、https://www.hifiengine.com/manual_library/sony/cdp-710.shtml#comment-29462
[36]1ビットDACとR-2R DACの音質差 -- 名チップ PCM56、https://ameblo.jp/etsuo-okuda/entry-10479409645.html
[37]DACが16bitで何が悪い!、ステレオ時代、ネコ・パブリッシング、vol.21 pp.85-95
[38]CDの16ビットデータを20ビット化するビット拡張技術のしくみと効果[前編]、柴崎功、MJ無線と実験、誠文堂新光社、2008年8月号(第95巻 第8号 通巻1026号)、pp.84-94
[39]CDの16ビットデータを20ビット化するビット拡張技術のしくみと効果[中編]、柴崎功、MJ無線と実験、誠文堂新光社、2008年9月号(第95巻 第9号 通巻1027号)、pp.84-93
[40]CDの16ビットデータを20ビット化するビット拡張技術のしくみと効果[後編]、柴崎功、MJ無線と実験、誠文堂新光社、2008年10月号(第95巻 第10号 通巻1028号)、pp.84-92
[41]素子再生音に革命をもたらしたフルエンシーフィルター、柴崎功、MJ無線と実験、誠文堂新光社、2009年4月号(第96巻 第4号 通巻1034号)、pp.84-93
[42]ヤマハプロビット方式CDプレーヤーの詳細、柴崎功、MJ無線と実験、誠文堂新光社、1996年9月号(第83巻 第9号 通巻883号)、pp.94-101

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