DAC63S-mini

 CDプレーヤのディジタル/アナログ変換部(DAC)が再生音に大きな影を落としているらしい事を知り、DACの違いで聴感がどんなに変わりうるか体験したくなった。ネット上では先達の人達が様々なDACチップ、様々な回路構成、腕をふるった組み付けを楽しんでいる事を知った。
 DA変換チップとして評価が高い1ビットビットストリーム型DAC7搭載KENWOODのDP-1001を入手、改造試聴していたが、先達の人達の様にDA変換部分のみを自作してみたい衝動に駆られ、製作の検討を始めた次第。先達の凄腕の人達は、自分で設計試作した基板を領布してくれており、まずはそれら基板を利用させていただく方針とした。DA変換の思想としてはフルーエンシ情報理論をDACチップ化したものが目新しく[6][7]、サンプリング領域内データから高域側を伝達関数的に推定再生するという呪縛から逃れがたかったが、ネット上の製作記の試聴例や、所有するアンプやスピーカが古典的な狭帯域のものである事等を総合的に判断し、断念。先達の方々の物量投入型の怒濤のDACでは手に余ると尻込みしていた所、領布完了状態が多いDAC基板の中わざわざ再製作して領布して下さっている方[3]が居られたので、20ビットPCM-63PシングルのDAC63S-miniを製作する事とした。

DAC63S-mini部品
DAC63S-mini領布基板と入手した部品類

 DAC63S-miniの製作マニュアル記載の部品リストを元に部品の手配を開始したが、結局販社四ヶ所から購入。送料やら振り込み手数料やらがかさんだが、田舎故やむなし。これから順次製作予定。構想としては、CDトランスポートは前述DP-1001を使用、入力は光、トランスはトロイダル、DACチップ・オペアンプ[8]を入れ替えて楽しめる様ICソケット化。

DAC63S-mini内部
製作したDAC63S-miniの内部

 太平洋高気圧がせり出して沖縄よりも北海道の気温が高い日々となっている猛暑の中、いよいよ左に汗ふきタオルと扇風機、右に半田ごて(IC用)を揃えての製作開始。久し振りのIC工作であるが、今までの製作形態はICソケットに挿して終わりか、ワイヤラップの経験しかない私にとって、チップコンデンサやフラットパッケージIC(ピン間1.27mmピッチ)を基板に直接半田付けする作業は初体験。
 最近隣町に出来た衣料品ディスカウントショップの客寄せ商品(それも殆どお父さん向けと思われるLEDライトやら何やら)の中に格安ヘッド装着型ルーペを見つけてゲットしていたので、早速装着。拡大世界の浮遊感に彷徨いながら、製作マニュアル記載のフラットパッケージ半田付け要領通りに、ペースト少々その後に微細半田付けを繰り返して何とかフラットパッケージIC半田付け行程終了。五十代半ばのピンぼけした目にはきつい作業であった。全部品の半田付けが終わりに近づいた頃、タイミング良くFET入力型のオペアンプ(OPA2604AP)が宅配業者郵便で届き、早速ソケットに挿入。

DAC63S-mini裏面
製作したDAC63S-miniのケース裏面

 レタリングも今回は白を用意。ケースは排熱を考慮し、底面とトップに空気穴を加工している。トップにはこの夏張り替えた網戸用ネットの切れ端を接着し、ゴミの進入を阻止。

DAC63S-mini完成
完成したDAC63S-mini

 文字通りの汗水流しての製作が終了した後日、猛暑から一転し最高気温が10゜Cも低下した日にアウトレット品の両端角形光ディジタルケーブルが届き、いよいよ通電チェックと音出し。
 CDトランスポートとして使用するDP-1001へカミさんが最近購入したバイオリン曲のCDをセット後、光出力端子と製作したDAC63S-mini光入力端子を光ケーブル結合し、いきなりのノイズに備えてアンプのボリュームを絞る。DAC63S-miniのスイッチを投入するとLEDランプが微かに点灯(LED電流制限抵抗値1kΩでは大きすぎた様で後日218Ωへ変更、やや明るくなった)。火花・煙は出ないか、素子類がバチバチショートしていないか、ヒューズは飛ばないか、一番の緊張どきである。何事も起こらずホッとしてPLAYボタンを押し、おもむろにアンプのボリュームを上げるとスピーカーから曲が流れてきた。気になっていた電圧安定化IC用放熱器の温度は、熱いが手で触れる程度であった。電源投入しっぱなしで、トップ空気穴から微かに暖かい上昇気流を感じる。後はDP-1001出力とDAC63S-mini出力を取っ替え引っ替え聴き比べ。
 両者共オペアンプはFET入力型のOPA2604APとしているので、違いはほとんど電源とDAC周りのみ。DP-1001は1ビットビットストリーム型DAC7搭載機、DAC63S-miniは20ビットDACであるPCM-63Pをシングルで使用している。聴き比べてみると確かにDACの違いを感じる事が出来るが、この差異は切り替えながら試聴した場合に判る程度で、CD一枚まるまるどちらかのDACで通して聴いた場合、私の駄耳にはもう判別がつかない。DAC7はクリアーかつ音域が広く弦の響きにパワー感を伴うが、PCM-63PではDAC7と比して音域が狭く感じられるものの、弦一本一本の響きを聴き分けられそうな程中高音域に繊細感がある。いずれも甲乙つけがたい。


悦楽の思い

 それにしても、である。  ネット上に実に様々な先達の方々の製作記が有る事か。個人の方々が良い音を求めて創意工夫している様が見て取れ、教わる事多しである。基板製作は序の口で、DACチップ段重ねやら、数百本の抵抗から一本ずつ抵抗値を測定して選別したり、電解コンデンサへのアルミシール貼りやら、種々DACを載せ替え試せる変換基板やら、オペアンプの個性による音の差異やら、もう、目から鱗状態である。
 昨今インターネットは「Web2.0」時代[10]と云われている。インターネット接続ハード・ソフトが中心であったインターネット黎明期を経て、インフラとしてのインターネットはもはや無色透明なものとなり、コンテンツとしての内容が主役の時代に突入。コンテンツとして個人ベースの日常が怒濤の如くネット上に溢れる時代。ブログが時代のキーワードとなっているのもこうした流れで見ると当然といえる。この様な状況下、今までは知り得なかった個人ベースの創意工夫(例えばDAC製作記など)がネット上に溢れている訳で、新たな時代に入っているんだなと実感した次第。


[1]tsdoctor HOME PAGE、https://tsdoctor.web.fc2.com/dp1001.htm
[2]Philips DAC、http://www.lampizator.eu/lampizator/LINKS%20AND%20DOWNLOADS/DATAMINING/tda1547.pdf
[3]お気楽オーディオキット資料館、http://www.easyaudiokit.com/
[4]DAC63S-mini/お気楽DAC2の製作、http://yasu-audio.com/dac63s_01.html
[5]DAC(DAC63S-mini)、http://www.geocities.jp/mkttid/dac63s.html
[6]フルーエンシ情報理論、http://www.jst.go.jp/kisoken/seika/zensen/04toraichi/
[7]EMISUKEの電子工作部屋、http://www.geocities.jp/aaa84250/HAIFU_16.htm
[8]Chu Moyタイプヘッドホンアンプの製作、http://www.minor-audio.com/bibou/amp/headphone_amp2004.html
[9]Web2.0が面白いほどわかる本、小川宏・後藤康成著、中経出版、中経の文庫495
[10]Pioneer レガートリンク解説、https://jpn.pioneer/ja/carrozzeria/archives/products/highend/lineup/rs-a1x2/function_2.html
[11]レガートリンク付きCDプレーヤについての検討(その2)、https://blogs.yahoo.co.jp/kiyo19371122/29056796.html
[12]折り返し雑音とフィルタ、http://www.gem.hi-ho.ne.jp/katsu-san/audio/next_gen/alias/aliasing.html
[13]サンプリング周波数と音質、http://aok.la.coocan.jp/sample_hz.htm
[14]お手軽シリーズ1.5の巻き、http://www20.tok2.com/home/easyaudiokit/okiraku/okiraku15.html
[15]「在庫限り」の誘惑に負けるの巻き(FN1242A)、http://www20.tok2.com/home/easyaudiokit/FN1242A/FN1242A.html
[16]心理学的,及び生理学的実験による超音波音響信号の知覚に関する考察、杉本武士、筑波大学大学院博士課程システム情報工学研究科修士論文、2003
[17]AL24 Processing、https://www.denon.jp/jp/blog/3817/index.html
[18]ONKYO 技術情報VLSC、https://www.jp.onkyo.com/audiovisual/technology/
[19]ビクター K2 テクノロジー技術情報、https://www.jvcmusic.co.jp/k2technology/aboutk2/technology.html
[20]二次元アレイスピーカを使った音場の形成とそのシュミレーション、http://tamlab.yz.yamagata-u.ac.jp/STUDY/スピーカ/speaker.html
[21]「Supreme D.R.I.V.E.(仮称)」開発!、http://www.kenwood.co.jp/newsrelease/2000/press20000619.html
[22]「D.R.I.V.E. with 32fs & 22bit resolution」、http://d.hatena.ne.jp/tma1/20070105
[23]アナログーデジタル変換、橋本研也、http://www.te.chiba-u.jp/~ken/lecture/Trans-3.pdf
[24]高速化に適した周波数変調方式刄ーADC、前澤宏一、松原渉、酒向万里生、水谷孝、http://www3.u-toyama.ac.jp/maezawa/Research/IPArev2.pdf
[25]AD/DA変換器とディジタルフィルタ、山崎芳男、日本音響学会誌 46巻 3号:1990、https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasj/46/3/46_KJ00001455904/_pdf/-char/ja
[26]デジタルとアナログの協調と共存、小林春夫、https://kobaweb.ei.st.gunma-u.ac.jp/news/pdf/koba20071016-2.pdf [27]AD/DA変換器、岩田穆、集積回路基礎 第10章、http://www.dsl.hiroshima-u.ac.jp/~iwa/text/LB10.ADC.pdf
[28]SL-P70仕様、https://audio-heritage.jp/TECHNICS/player/sl-p70.html
[29]アナログ・デジタル変換の基礎、村口正弘、マイクロ波工学2009.07.10
[30]1ビットD/A変換アレイを用いたD/A変換方式、谷泰範、信学技報、CAS94-9,VLD94-9,DSP94-31、pp.63-70
[31]ONKYO Integra C-1E解説、https://audio-heritage.jp/ONKYO/player/integrac-1ever2.html
[32]Victor XL-Z900、https://audio-heritage.jp/VICTOR/player/xl-z900.html
[33]SONY DAS-R1a、http://audio-heritage.jp/SONY-ESPRIT/etc/das-r1a.html
[34]Leica a la carte:SONY CDP-EX700、http://m3leica.blog66.fc2.com/blog-entry-556.html
[35]Sony CDP-710、https://www.hifiengine.com/manual_library/sony/cdp-710.shtml#comment-29462
[36]1ビットDACとR-2R DACの音質差 -- 名チップ PCM56、https://ameblo.jp/etsuo-okuda/entry-10479409645.html
[37]DACが16bitで何が悪い!、ステレオ時代、ネコ・パブリッシング、vol.21 pp.85-95
[38]CDの16ビットデータを20ビット化するビット拡張技術のしくみと効果[前編]、柴崎功、MJ無線と実験、誠文堂新光社、2008年8月号(第95巻 第8号 通巻1026号)、pp.84-94
[39]CDの16ビットデータを20ビット化するビット拡張技術のしくみと効果[中編]、柴崎功、MJ無線と実験、誠文堂新光社、2008年9月号(第95巻 第9号 通巻1027号)、pp.84-93
[40]CDの16ビットデータを20ビット化するビット拡張技術のしくみと効果[後編]、柴崎功、MJ無線と実験、誠文堂新光社、2008年10月号(第95巻 第10号 通巻1028号)、pp.84-92
[41]素子再生音に革命をもたらしたフルエンシーフィルター、柴崎功、MJ無線と実験、誠文堂新光社、2009年4月号(第96巻 第4号 通巻1034号)、pp.84-93
[42]ヤマハプロビット方式CDプレーヤーの詳細、柴崎功、MJ無線と実験、誠文堂新光社、1996年9月号(第83巻 第9号 通巻883号)、pp.94-101

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