CDP-XE700


CDP-XE700
SONY CDP-XE700

 何十年来と云う猛暑や南の島にいるかの様な連日の大雨で地球規模の異変を強烈に認識した年の初秋、地元の同級生の掲示板へ「SONYの光学固定方式の初期型エントリー機。低域のしっかり感が価格以上で、スピード感のある音調が気に入っていた。」との記載が。

 なになに光学固定方式と言う事で調べてみると、光ピックアップの位置を動かしてCDのピットをトレースする通常方式とは異なり、CD回転軸を駆動系毎動かしてピットをトレースするものらしい。PIONEERはCDを逆さまにしてターンテーブルへ乗せて上から光ピックアップでトレース、TEACはVRDSなるシステムでCDと同じサイズの重たいクランパでしっかりCDを押さえむ方式を採用したりと、各社の試行錯誤が見て取れる。

 私自身D/A変換方式の遍歴なので、トランスポートの光固定方式そのものにはそれもアリか程度で更に調べてみると、「パルスD/Aコンバーター」や「ハイデンシティ・リニアコンバーター・システム」なる説明[33]が目に入った。
パルスD/Aコンバーターでは、1個の電流源と1個の電子スイッチを使用し、出力値はハイ(電流が流れる)とロー(電流が流れない)の2つしかありません。そして、オーディオ波形の中間値も全て、その2値出力の時間軸方向の広がり方であるパルス出力の時間平均で得ています。このため、従来のD/Aコンバーターで不可避だった、電流源の誤差から生ずる微分非直線ひずみや、電子スイッチの動作タイミングのズレから生ずるグリッチ、ゼロクロス歪が、原理的に発生しません。

ちなみに、パルスD/Aコンバーターは、マスタークロックの最高動作周波数50MHz、パルスの数にして毎秒5,000万パルスを達成しています。また、パルスの算出法にはSony Extended Noise Shaping演算を導入し、高密度なパルス列を生成することで高いダイナミックレンジを実現しています。
 D/AそのものはMASHの1ビット変換の流れをくみ、オーバーサンプルとノイズシェーパーを組み合わせたものの様だが、前掲松下のSU-A70アンプ搭載Class-AAの電流増幅にも通じる、電圧制御から電流制御へ発想転換を図った考え方が特徴的と思い至った次第。そういえばCD開発の雄たるSONYをまだ試聴していないと言う事で、6コインのCDP-XE700完動品がやって来た。High Density Linear Converterの印字が誇らしげである。CXD8567AMと云うSONY製8倍オーバーサンプリングデジタルフィルタ付きチップとの情報もあるが、XE系CDプレーヤーにしか搭載されなかった模様。かなり希少な機種とのご対面か。

 さっそくゴシゴシの大作戦であるが、綺麗に清掃されていた筐体へガラスマイペットを吹き付けると白い泡が瞬く間に濃い黄土色に。これは凄い。ヘビースモーカーのお宅か、日常的な煙漂う場所で使われていたか。完動品との事ではあったが念のため中を開けると、うっすらと黄土色。ピックアップレンズと見栄えを納得するために黄土色と化した白いリボンケーブルや周辺をアルコール拭き。

 CDP-XE700は入門機であるが、ネットワーク上の評では「本当にプレーンな感じがするのである。聞いているにはちょっと物足りなさを感じるかもしれないが、ニュートラルという意味ではこの価格帯にしては極めてめずらしい存在である。CDP-XE700が奏でる中立な音は上級機でもなかなか聞く事はできないのではないだろうか?」[34]とある。

 さて、いつもの様に Everything Must Change のJAZZボーカルCDと常用リファレンスバイオリン曲CDを用意しての試聴である。このCDP-XE700は、他の同社光固定方式の手で置くCDスタビライザー(CD中央へ置くウェイト)と異なり、CDがロードされると内部で自動的に降りてくる入門機型である。奏でられる音はこれまで聴いてきた機種と全くと云っていい程異なる趣と感じられる。低域から高域に至る全域でフラットで音源毎の分離感もなくまろやかな音に満ちている。しっとりとした弦の響きは束ねた1本に纏まっており、急峻な切り込みも、良く耳にするコンサートでのそれらしい。また、繊細かつ高域で癖のない清楚なボーカルとまろやかな重低音を聴かせてくれる。これと対比するとこれまでの機種は、各楽器や弦の糸までもが明瞭に分離してはいるものの、音源毎に分離する感がありやや痩せて聞こえるきらいがある。そういう意味でこのCDP-XE700の醸し出しているものはこれまでのどの機種とも比較しようがない独特の音場と感ぜられる。この、低域から高域に至る全域でフラットで音源毎の分離感もないと云う所が前述の「プレーン」「ニュートラル」[34]に通じているものと思われる。これまでの音源の粒立ちを楽しめた現用機と入れ換えたい所ではあるが、どこか今ひとつ音源毎の分離感に物足りなさがあり決断できずにいる。

 その後、40年代の録音となる名盤のCDリリースを立て続けに聴く機会があった。これまでの常用機などで鳴らしては見るものの、翳んだいにしえの演奏になにか物足りなさを感じてこのXE700を繋いでみた。なにやら60年以上の時代を経てタイムスリップしているかの如く、ライブ感漂う演奏会場に佇んでいる私が居る。常用機との入れ換えを決断した次第。

 SONYはCD開発の雄として、さすがに他社とは一線を画す製品群を送り出しているのだとの思いである。


[1]tsdoctor HOME PAGE、https://tsdoctor.web.fc2.com/dp1001.htm
[2]Philips DAC、http://www.lampizator.eu/lampizator/LINKS%20AND%20DOWNLOADS/DATAMINING/tda1547.pdf
[3]お気楽オーディオキット資料館、http://www.easyaudiokit.com/
[4]DAC63S-mini/お気楽DAC2の製作、http://yasu-audio.com/dac63s_01.html
[5]DAC(DAC63S-mini)、http://www.geocities.jp/mkttid/dac63s.html
[6]フルーエンシ情報理論、http://www.jst.go.jp/kisoken/seika/zensen/04toraichi/
[7]EMISUKEの電子工作部屋、http://www.geocities.jp/aaa84250/HAIFU_16.htm
[8]Chu Moyタイプヘッドホンアンプの製作、http://www.minor-audio.com/bibou/amp/headphone_amp2004.html
[9]Web2.0が面白いほどわかる本、小川宏・後藤康成著、中経出版、中経の文庫495
[10]Pioneer レガートリンク解説、https://jpn.pioneer/ja/carrozzeria/archives/products/highend/lineup/rs-a1x2/function_2.html
[11]レガートリンク付きCDプレーヤについての検討(その2)、https://blogs.yahoo.co.jp/kiyo19371122/29056796.html
[12]折り返し雑音とフィルタ、http://www.gem.hi-ho.ne.jp/katsu-san/audio/next_gen/alias/aliasing.html
[13]サンプリング周波数と音質、http://aok.la.coocan.jp/sample_hz.htm
[14]お手軽シリーズ1.5の巻き、http://www20.tok2.com/home/easyaudiokit/okiraku/okiraku15.html
[15]「在庫限り」の誘惑に負けるの巻き(FN1242A)、http://www20.tok2.com/home/easyaudiokit/FN1242A/FN1242A.html
[16]心理学的,及び生理学的実験による超音波音響信号の知覚に関する考察、杉本武士、筑波大学大学院博士課程システム情報工学研究科修士論文、2003
[17]AL24 Processing、https://www.denon.jp/jp/blog/3817/index.html
[18]ONKYO 技術情報VLSC、https://www.jp.onkyo.com/audiovisual/technology/
[19]ビクター K2 テクノロジー技術情報、https://www.jvcmusic.co.jp/k2technology/aboutk2/technology.html
[20]二次元アレイスピーカを使った音場の形成とそのシュミレーション、http://tamlab.yz.yamagata-u.ac.jp/STUDY/スピーカ/speaker.html
[21]「Supreme D.R.I.V.E.(仮称)」開発!、http://www.kenwood.co.jp/newsrelease/2000/press20000619.html
[22]「D.R.I.V.E. with 32fs & 22bit resolution」、http://d.hatena.ne.jp/tma1/20070105
[23]アナログーデジタル変換、橋本研也、http://www.te.chiba-u.jp/~ken/lecture/Trans-3.pdf
[24]高速化に適した周波数変調方式刄ーADC、前澤宏一、松原渉、酒向万里生、水谷孝、http://www3.u-toyama.ac.jp/maezawa/Research/IPArev2.pdf
[25]AD/DA変換器とディジタルフィルタ、山崎芳男、日本音響学会誌 46巻 3号:1990、https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasj/46/3/46_KJ00001455904/_pdf/-char/ja
[26]デジタルとアナログの協調と共存、小林春夫、https://kobaweb.ei.st.gunma-u.ac.jp/news/pdf/koba20071016-2.pdf [27]AD/DA変換器、岩田穆、集積回路基礎 第10章、http://www.dsl.hiroshima-u.ac.jp/~iwa/text/LB10.ADC.pdf
[28]SL-P70仕様、https://audio-heritage.jp/TECHNICS/player/sl-p70.html
[29]アナログ・デジタル変換の基礎、村口正弘、マイクロ波工学2009.07.10
[30]1ビットD/A変換アレイを用いたD/A変換方式、谷泰範、信学技報、CAS94-9,VLD94-9,DSP94-31、pp.63-70
[31]ONKYO Integra C-1E解説、https://audio-heritage.jp/ONKYO/player/integrac-1ever2.html
[32]Victor XL-Z900、https://audio-heritage.jp/VICTOR/player/xl-z900.html
[33]SONY DAS-R1a、http://audio-heritage.jp/SONY-ESPRIT/etc/das-r1a.html
[34]Leica a la carte:SONY CDP-EX700、http://m3leica.blog66.fc2.com/blog-entry-556.html
[35]Sony CDP-710、https://www.hifiengine.com/manual_library/sony/cdp-710.shtml#comment-29462
[36]1ビットDACとR-2R DACの音質差 -- 名チップ PCM56、https://ameblo.jp/etsuo-okuda/entry-10479409645.html
[37]DACが16bitで何が悪い!、ステレオ時代、ネコ・パブリッシング、vol.21 pp.85-95
[38]CDの16ビットデータを20ビット化するビット拡張技術のしくみと効果[前編]、柴崎功、MJ無線と実験、誠文堂新光社、2008年8月号(第95巻 第8号 通巻1026号)、pp.84-94
[39]CDの16ビットデータを20ビット化するビット拡張技術のしくみと効果[中編]、柴崎功、MJ無線と実験、誠文堂新光社、2008年9月号(第95巻 第9号 通巻1027号)、pp.84-93
[40]CDの16ビットデータを20ビット化するビット拡張技術のしくみと効果[後編]、柴崎功、MJ無線と実験、誠文堂新光社、2008年10月号(第95巻 第10号 通巻1028号)、pp.84-92
[41]素子再生音に革命をもたらしたフルエンシーフィルター、柴崎功、MJ無線と実験、誠文堂新光社、2009年4月号(第96巻 第4号 通巻1034号)、pp.84-93
[42]ヤマハプロビット方式CDプレーヤーの詳細、柴崎功、MJ無線と実験、誠文堂新光社、1996年9月号(第83巻 第9号 通巻883号)、pp.94-101

Return