C-711M


C-711M
ONKYO C-711M

 ONKYOの不調ミニコンポを修理すべく情報を検索している時、FPCSと呼ばれる方式を採用したCDプレーヤがある事を知るに至った。C-711シリーズ等である。これは同社製品に多く見られる、ベクトル発生器を利用してパルス性ノイズを含まない信号を再生成するVLSC方式とは異なるものである。FPCSの特徴は以下の通り。(Integra C-1E参照)[31]
D/A変換部には、ONKYOカスタムのデジタルフィルターSM5843APを核にしたFPCS(Fine Pulse Conversion System)を開発・搭載しています。
このFPCS構成は、SM5843APにフィリップス社のSAA7350とTDA1547を左右独立に2個使用するというもので、SAA7350の8fsの信号を192fsに生成するアップサンプリング機能を使用し、データーインターフェース回路を通して左右独立のD/AコンバーターTDA1547に入力することで、高品位なD/A変換を実現しています。
さらに、より正確な信号を得るため、2倍のサンプリング周波数に匹敵する滑らかな補間が可能なデジタルフィルターを搭載しています。
 この説明やオンキヨー技術解説によると、通常のディジタルフィルターの代わりに補間処理を伴うディジタル演算処理(DSP)を行ってはいるが、フルーエンシの様な味付けのある伝達関数的なものではなく、率直なフィルタリング処理と思われる。この事から通常のD/A変換器のフィルタリングの延長線上のではあるものの、不要な高域雑音を伴わない切れ味爽やかなすっきりとした音がするのではないかと想像される。ONKYOはこのFPCS方式の後にVLSC方式に方針変更したきらいがあり、現在もVLSCをパソコンオーディオ基板等の製品に搭載し続けている。DSPによるソフトウェアフィルタリングとも云えるFPCSよりもベクトル発生器と云う実回路を伴うVLSCの方が音質的に勝る面があるのかも知れない。

 探す事しばし、日食騒ぎのあった翌年の成人式で華やいでいる頃に、やっと2コインちょっとで「動作しないため通電のみ確認しました。」という物がやって来た。

 その月はなんやかんやで忙しくやっと最終週に荷ほどきしてコンセントへ接続すると、スタンバイランプは点灯するものの電源が入らない。手で触るとCDトレーがスッーと動いてしまいしっかりと故障していると腹をくくりながら筐体を開けると、なんとピックアップからメイン基板へ接続するリボンケーブルが外されている。既に何らかの手が入っている様子である。ケーブルを差し込んで電源を入れると、今度はピックアップがCD回転軸中央の初期位置へ移動するものの定位置を検出出来ずに歯車の過負荷解放空転状態に。ガタガタとプラスチック歯車が損傷しそうな音を発している。トレー部に目を移すとベルトが無くなっており、トレーが駆動機構に噛み合っていない影響でピックアップ移動が正常終了しない事も考えられ、機構部を露出したままでCDをトレー無しで固定して状態を判断する事に。

Standalone Operation
CD手動固定による動作試験

 電源を投入すると、ピックアップ初期位置移動、CD有無検出、CD回転、CDの固有データ読込、CD情報表示、CD演奏スタンバイと一連の作動が正常に行われている。これはCDトレー駆動が正常になれば、プレーヤとしては問題なしの兆候と思われ、まずは全体のゴシゴシ洗浄を行い、ピックアップ部清掃や機構部各所のグリスアップを実施。その後故障品から取り外して保管していたベルトを装着するも今ひとつ緩めで、CDマウンタ最後の一押しでのピックアップ駆動フレームの最終定位置への移動がうまくいかない。これはケチらずに新品を使用するしかないと、なけなしの新品ベルトを装着するとやっとの事で正常作動に至った。これまで試聴してきたCDプレーヤの場合、ほとんどが再生信号出力はオペアンプ出力がカップリングなどを通して直接出力端子に至っていたが、今回のC-711Mではご丁寧にもトランジスタによるバッファアンプとおぼしきものが挿入されている様子。感心した次第。

 さて、CD数枚流した後の定番 Everything Must Change のJAZZボーカルCDと常用リファレンスバイオリン曲CDによるFPCS試聴である。第一印象は、低域が力強くて高域はやや硬め、全体的にひと塊な音場。微細なメリハリが感ぜられず一本調子で、高域は金属音的ですらある。音場の余韻が聴き取れずにバイオリン、ピアノ、ボーカルいずれも感情移入しづらい音とでも云おうか。

 我が地方の桜が葉桜を終えた時分に、別掲FR-155GXとの比較試聴に引っ張り出した所、曲の途中で音が途切れる症状が発生。外気温が変わってサーボ周辺の調子が狂ったか。慌てて光ピックアップを調整する羽目に。測定器無しの素人調整である。しかも、光ピックアップはKENWOODのDP-1001でも使用しているSONY製KSS-240Aで調整箇所が3箇所もあるタイプ。ネット情報を基に順次調整を繰り返し、何とか音が途切れない状態に復元。1月上旬の試聴時印象と大きく異なる鳴りっぷりである。先の試聴は春遠かりし1月中旬、今回は初夏を思わせる外気温となった連休明け翌週、しかも光ピックアップ周りの調整後である。1月中旬の試聴感を次の通りに修正したい。

 低域から高域までバランスが良いものの、全体的には微細なメリハリが感ぜられず一本調子。低域は音場がさほど分解されない。高域は若干解像度に陰りが感ぜられ、一部音域の粒が太くなるきらいがある。我が駄耳にはバイオリン、ピアノ、ボーカルいずれも感情移入しづらい音とでも云おうか。

 ディジタルフィルタは演算によって特定周波数以上の成分を減衰するが、補間処理を伴うディジタル演算処理たるFPCSはその処理過程で微小レベルの余韻が欠落し高域側の一部音域を強調しすぎるのかも知れないと思わざるを得ない。


[1]tsdoctor HOME PAGE、https://tsdoctor.web.fc2.com/dp1001.htm
[2]Philips DAC、http://www.lampizator.eu/lampizator/LINKS%20AND%20DOWNLOADS/DATAMINING/tda1547.pdf
[3]お気楽オーディオキット資料館、http://www.easyaudiokit.com/
[4]DAC63S-mini/お気楽DAC2の製作、http://yasu-audio.com/dac63s_01.html
[5]DAC(DAC63S-mini)、http://www.geocities.jp/mkttid/dac63s.html
[6]フルーエンシ情報理論、http://www.jst.go.jp/kisoken/seika/zensen/04toraichi/
[7]EMISUKEの電子工作部屋、http://www.geocities.jp/aaa84250/HAIFU_16.htm
[8]Chu Moyタイプヘッドホンアンプの製作、http://www.minor-audio.com/bibou/amp/headphone_amp2004.html
[9]Web2.0が面白いほどわかる本、小川宏・後藤康成著、中経出版、中経の文庫495
[10]Pioneer レガートリンク解説、https://jpn.pioneer/ja/carrozzeria/archives/products/highend/lineup/rs-a1x2/function_2.html
[11]レガートリンク付きCDプレーヤについての検討(その2)、https://blogs.yahoo.co.jp/kiyo19371122/29056796.html
[12]折り返し雑音とフィルタ、http://www.gem.hi-ho.ne.jp/katsu-san/audio/next_gen/alias/aliasing.html
[13]サンプリング周波数と音質、http://aok.la.coocan.jp/sample_hz.htm
[14]お手軽シリーズ1.5の巻き、http://www20.tok2.com/home/easyaudiokit/okiraku/okiraku15.html
[15]「在庫限り」の誘惑に負けるの巻き(FN1242A)、http://www20.tok2.com/home/easyaudiokit/FN1242A/FN1242A.html
[16]心理学的,及び生理学的実験による超音波音響信号の知覚に関する考察、杉本武士、筑波大学大学院博士課程システム情報工学研究科修士論文、2003
[17]AL24 Processing、https://www.denon.jp/jp/blog/3817/index.html
[18]ONKYO 技術情報VLSC、https://www.jp.onkyo.com/audiovisual/technology/
[19]ビクター K2 テクノロジー技術情報、https://www.jvcmusic.co.jp/k2technology/aboutk2/technology.html
[20]二次元アレイスピーカを使った音場の形成とそのシュミレーション、http://tamlab.yz.yamagata-u.ac.jp/STUDY/スピーカ/speaker.html
[21]「Supreme D.R.I.V.E.(仮称)」開発!、http://www.kenwood.co.jp/newsrelease/2000/press20000619.html
[22]「D.R.I.V.E. with 32fs & 22bit resolution」、http://d.hatena.ne.jp/tma1/20070105
[23]アナログーデジタル変換、橋本研也、http://www.te.chiba-u.jp/~ken/lecture/Trans-3.pdf
[24]高速化に適した周波数変調方式刄ーADC、前澤宏一、松原渉、酒向万里生、水谷孝、http://www3.u-toyama.ac.jp/maezawa/Research/IPArev2.pdf
[25]AD/DA変換器とディジタルフィルタ、山崎芳男、日本音響学会誌 46巻 3号:1990、https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasj/46/3/46_KJ00001455904/_pdf/-char/ja
[26]デジタルとアナログの協調と共存、小林春夫、https://kobaweb.ei.st.gunma-u.ac.jp/news/pdf/koba20071016-2.pdf [27]AD/DA変換器、岩田穆、集積回路基礎 第10章、http://www.dsl.hiroshima-u.ac.jp/~iwa/text/LB10.ADC.pdf
[28]SL-P70仕様、https://audio-heritage.jp/TECHNICS/player/sl-p70.html
[29]アナログ・デジタル変換の基礎、村口正弘、マイクロ波工学2009.07.10
[30]1ビットD/A変換アレイを用いたD/A変換方式、谷泰範、信学技報、CAS94-9,VLD94-9,DSP94-31、pp.63-70
[31]ONKYO Integra C-1E解説、https://audio-heritage.jp/ONKYO/player/integrac-1ever2.html
[32]Victor XL-Z900、https://audio-heritage.jp/VICTOR/player/xl-z900.html
[33]SONY DAS-R1a、http://audio-heritage.jp/SONY-ESPRIT/etc/das-r1a.html
[34]Leica a la carte:SONY CDP-EX700、http://m3leica.blog66.fc2.com/blog-entry-556.html
[35]Sony CDP-710、https://www.hifiengine.com/manual_library/sony/cdp-710.shtml#comment-29462
[36]1ビットDACとR-2R DACの音質差 -- 名チップ PCM56、https://ameblo.jp/etsuo-okuda/entry-10479409645.html
[37]DACが16bitで何が悪い!、ステレオ時代、ネコ・パブリッシング、vol.21 pp.85-95
[38]CDの16ビットデータを20ビット化するビット拡張技術のしくみと効果[前編]、柴崎功、MJ無線と実験、誠文堂新光社、2008年8月号(第95巻 第8号 通巻1026号)、pp.84-94
[39]CDの16ビットデータを20ビット化するビット拡張技術のしくみと効果[中編]、柴崎功、MJ無線と実験、誠文堂新光社、2008年9月号(第95巻 第9号 通巻1027号)、pp.84-93
[40]CDの16ビットデータを20ビット化するビット拡張技術のしくみと効果[後編]、柴崎功、MJ無線と実験、誠文堂新光社、2008年10月号(第95巻 第10号 通巻1028号)、pp.84-92
[41]素子再生音に革命をもたらしたフルエンシーフィルター、柴崎功、MJ無線と実験、誠文堂新光社、2009年4月号(第96巻 第4号 通巻1034号)、pp.84-93
[42]ヤマハプロビット方式CDプレーヤーの詳細、柴崎功、MJ無線と実験、誠文堂新光社、1996年9月号(第83巻 第9号 通巻883号)、pp.94-101

Return