AX-F1 & AX-F3


AX-F1
VICTOR AX-F1(左側)

 アンプの増幅方式は増幅素子の特性の使い方によって、A級、AB級、B級、C級そしてディジタルアンプことD級(PWM:パルス幅変調)と区分けして呼ばれ、それぞれ音質が異なる様である。純粋な音がするとの評が散見されるA級アンプに興味が湧いてきた。A級は1980年代から1990年代にかけて各社それぞれの方式を競い合っていた。A級アンプは原理的に無信号時でも増幅素子に一定の電流を流す必要があり、従って発熱を伴う事になる。各社無信号時の電流をコントロールしたりの工夫により、発熱と消費電力対策に果敢に挑戦していた様である。

 さて、A級アンプである。一般的には超高級品でA級方式が採用されるケースが多く、コンパクトなアンプ(ハイコンポ等)ではなかなか見受けられない。根気よく探していた所、「アンプのボリュームは、9時の位置くらいまではガリがかなりあります。それ以上でも多少あります。」というミニコンポサイズ VICTOR AX-F1 が3コイン強でやって来た。

 AX-F1 のパネル面には Advanced Super-A とプリントされている。「スーパーA」方式そのものは、アメリカのスレッショルド社が開発した可変バイアスによる疑似A級回路のバリエーションで、いわゆる「ノンスイッチングアンプ」との事[1]。日本では、1979年にビクターが「スーパーA」方式と称してパワーアンプM-7050に搭載したのが最初の様である[1]。

 プッシュプル方式のアンプでは、交流波形のプラス側とマイナス側を独立して別の出力トランジスターで増幅し信号波形を合成している。その際、常にプラス側からマイナス側という風に切り替えのスイッチングが行われているため、どうしても合わせ目で歪みが発生してしまう。スレッショルド社の方式は、トランジスタのバイアスを可変してコントロールし、常に電流がプラス側及びマイナス側の両波形のトランジスターに流れるようにしてスイッチングをなくすものである。「スーパーA」はほぼこの方式と同様の方式と考えられ、高速動作の「スーパーAバイアスサーキット」によるバイアス電流のコントロールと高速なスイッチング特性を持つパワートランジスターの採用でB級アンプの高効率での高出力と、A級アンプ並の歪み特性を実現している模様である[2]。「アドバンスト・スーパーA」は、電源電流の2次歪みの影響を大きく低減させたもの[3]らしい。

 届いた AX-F1 であるが、いつもの様に内外装を清掃し、まずは電源投入前に入手時のコメントを信じてボリュームの整備をする事とした。ミニコンポ用のアンプなので、ボリュームはリモコン対応のモータードライブである。モータードライブ付きのボリューム基板を外し、ボリューム軸を回しながら抵抗値を見てみると、フロント側が確かに回し初めから9時位置まで抵抗値が激しく変動(ガリオーム状態)する。奥側は異常無し。ガリオーム対策は接点復活材塗布が一般的だが、接点復活材の液が乾くとかえってトラブルの元に成りかねなく、先達の人達が行っている分解洗浄を試みる事とした。しかしながら、いざ分解してみるとモータードライブの歯車軸がしっかりとボリューム回転軸へ固定されており、外し方が判らずボリューム自体を分解出来ない羽目に。仕方なく隙間から接点復活剤噴射かとも思ったが、ベトベトになってしまう事を懸念。しばらく考え込んでしまった。

Volume Repair
ボリューム(ガリオーム)整備

 結局、厚手の紙を極細短冊状に切り、先をちぎって毛羽立たせて隙間から差し込み、中のカーボン粕をゴシゴシ擦り取る作戦と相成った。4〜5回繰り返した後に、コネクタ等の電気的な接触改善に効果があると経験済みのCRC-556を、先程の先をほぐした厚紙極細短冊の先端へ吸着させて再度の内部ゴシゴシ作戦。最後にエアーダスターでカーボンを吹き飛ばし、ボリューム軸を回しながら抵抗値を見てみると、変動無く直線的に変化する事が確認出来た。

 ホクホクした心もちで組み付け、数時間の通電後定番の Everything Must Change のJAZZボーカルCDと常用リファレンスバイオリン曲CDによる試聴と相成った。

 レコーディングスタジオの演奏空間が広がった様な響きである。ピアノの高域が広がって聞こえてくる。A-N702 と比して低域は薄めである。全体的にみずみずしくて純度の高い音と感ぜられる。ピアノとバイオリン奏者の位置関係がぼけてつかみにくい印象。ボーカルは柔らかくかつ滑らかで綺麗な声として聞こえるが、A-N702 のハスキーな感じが伴わない。以前耳にした事がある高級アンプの音に違わず、確かに多くの先達の方々のA級アンプ評通りと納得した次第。

 VICTOR の F1 シリーズは先に別掲 SX-F1 スピーカーを試聴している。SX-F1 は VICTOR スピーカーとしては他に例を見かけないフェイズプラグ付きであった。F1シリーズたるアンプはA級の採用である。当時のF1シリーズにかかわった VICTOR の方々は、並々ならぬ情熱を注ぎ込んだに違いない。

AX-F1@XL-F3
VICTOR AX-F3(XL-F3との組み合わせ試聴)

 その後別掲XL-F3を得て、これは同系列アンプとの組み合わせで試聴せねばと急遽AX-F3を入手。6コインだった。ボリュームツマミの端が全周に渡ってささくれ立つ程の傷が付いていたが、番数多めのヤスリで丸めて触感的な引っかかりを無くし、内部の薄く積もった埃はブロー、動作的には問題ない物だった。内部構造や回路的にはAX-F1と変わりないと思われたが、ボリュームつまみに緑色のインジケータが付いており、筐体全体の色調と相まって高級感が増している。AX-F3とXL-F3の組み合わせは、音調は別掲XL-F3が支配的となるが、AX-F3の率直な素姓と相まって、ドライで切れの良いパワフルな印象を受けた。


[1]VICTOR M-L10、http://www.niji.jp/home/k-nisi/m-l10.htm
[2]Victor A-X9、http://www.niji.or.jp/home/k-nisi/a-x9.htm
[3]Victor AX-S9、http://www.niji.or.jp/home/k-nisi/ax-s9.html
[4]ビクターAX-Z921、オーディオ解体新書、http://kameson.net/audio/AX-Z921.htm

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