AX-570


AX-570
YAMAHA AX-570

 フルサイズアンプにめり込んで試聴を繰り返している中、メインアンプ部を前掲真空管やディジタルアンプとした場合の再生音を聴きたくなった次第。これら前掲空管やディジタルアンプは音量調節のみでトーンコントロールは無く、謂わばCDダイレクト状態での試聴であった。フルサイズ機は前掲 LM-011 スピーカーでの比較試聴としているが、小口径スピーカー故若干バスブースト気味でフラット感が得られており、音量調節のみのメインアンプの比較試聴にはコントロールアンプが必要となった。色々思い巡らし、いっその事プリ部とメイン部を切り離せるセパレートタイプのフルサイズ機を用意し、プリ部出力を真空管やディジタルアンプに接続してメインアンプとするのが良いのではないかと思い至った。

 真空管からトランジスタへの移行初期のトランジスタアンプは、プリ部とメイン部を切り離せるセパレート機能付きが散見されていたと思われ、探すとここ数十年のアンプにはセパレートタイプがほとんど見られないと判明。高級機はそもそもコントロールアンプとメインアンプが個別に送り出されいるが、駄耳にはとても手を出せる代物ではない。根気よく探すと、トランジスタへの移行初期の Aurex や OTTO 、Pioneer 等にセパレートタイプが散見された。これらは現在でも多くの人が興味を持っている機種らしく、僅かなコイン数での入手は叶わない。そんな中、YAMAHAのフルサイズアンプ系列の中にセパレート設計の機種があったと判明、前掲 AX-380 が好印象だった事もあり AX-570 が「左チャンネル不良」ながら6コインでやって来た。

 比較的綺麗な状態なので、まずはころがっていたカーステレオ用スピーカーを繋いで様子見電源投入。先達の方々には、ロータリー式インプットセレクタの接触不良改善策として分解清掃をなさっておられる方もおられ、同様症状を心配していたが徒労であった。構えつつ臨んだ「左チャンネル不良」はなぜか右チャンネルがガサゴソと調子が悪い。ボリュームやスイッチを一通り弄り回すもやはり右側はガサゴソ。スピーカープロテクション用リレーを疑い、メインアンプ部に異常が無ければスピーカー回路から降圧しているフォーン端子の出力は正常なはずと、ヘッドフォーンを通して聴くもやはり右側にガサゴソ、時々左側も途切れがち。これはメインアンプ部素子不調か、はたまたプリ部かとサービスマニュアルを眺めると、ご丁寧にもフォーン端子回路にもプロテクション用リレーが組み込まれているではないですか。前掲 AX-380 で驚いた「プロテクション動作時にメイン電源を切る」に加えてのフォーン回路のプロテクション。これまでミニコンポ、マイクロコンポを弄ってきた身としては、ここまでやるかとの驚き。まずはこれら3個のリレー接点を磨いて接点復活剤で清掃すると、上記症状は無くなった。初期点検時に気になっていたもう一点、バランスボリューム左側特定位置でのプツッと云うノイズ、意を決して可変抵抗を分解して摺動子や抵抗面を清掃するも、症状は低減すれど完治とまでには至らなかった。リレーは前掲 AX-380 同様電源周りにもう1個組み込まれているが、調子よく動作しているので手入れ無し。それにしてもこの時代のアンプ、リレーは鬼門である。

 このアンプの売りは、「高安定な電力を供給する強力 LiD (Low-impedance Drivability) 電源[1]と独自のリニアダンピングサーキット」との事で、前掲 TA-F500 の電源周りの強化と前掲 AX-380 のリニアダンピングサーキットが目指した組み合わせと取れなくもない。加えて、「グランドセンシング回路[2][3][4]を搭載」とも謳われている。このグランドセンシング、端子や基板などの信号周りを筐体グランドから浮かせる方式のようで、従って強靱なプラスチック骨格の上に部品類が組み付けられていて、外枠としての筐体がシールド状に包み込んでいる構造と見受けられる。なかなか手の込んだ造り込みが為されている。連続通電1日後の試聴では、前掲 AX-380 の試聴感「どっしりとした懐の深い芳醇な響きと同傾向の中に、各楽器の繊細な表情が聴き取れる。また際だってピアノの響きが沁みてくる。」に加えて、低域のドライブ感が増している印象でピアノが心地良く、演者と同じステージ上に佇んでいるが如くに空気感も伝わってくる。セパレート機能主体の選定ではあったが、演奏に入り込めて聴き疲れしない事もあり、今後の前掲真空管やディジタルアンプ比較試聴に備えて結線替えとなった。その後、フルサイズアンプ比較試聴に際して低域不足感からいったんは退いていたリニアム型ツィータ機、前掲 LS-J9 ではどうだろうかと試してみると、物足りないと感じていた低域も量感たっぷり、高域は言わずもがな。ダンピングファクター改善を狙ったリニアダンピングサーキットが効いてか、スピーカーを選ばずにアンプの個性が現れてくる印象。またしても LM-011 に感じた演者と同じステージ上に佇んでいるが如くの空気感である。不思議。


[1]YAMAHA AX-900、https://audiof.zouri.jp/ax-900.htm
[2]【CX-A5000/MX-A5000】グラウンドセンシング方式とは?、https://faq.yamaha.com/jp/s/article/J0005410
[3]ヤマハ独自のHCA回路、https://monokeros1100.blog.fc2.com/blog-entry-13334.html
[4]ヤマハ、5年ぶり刷新の11chパワーアンプ「MX-A5200」。GND改善などで音質向上、ブリッジ接続対応、https://www.phileweb.com/news/d-av/201809/05/44960.html

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